連載
アイランド・ホッパー
4 軍艦島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

「あの建物は単身者の住んだアパートです。太い柱のようなものが外側に6本ついていますが、あれはトイレ。排泄したものが、そのまま海に落ちる仕掛けになっていました」なんとまあ、究極の「ポットン便所」である。

 周遊を終え、いよいよ上陸。「揺れなかったね」「楽勝でしたね」笑顔で言い交わすわたしとM嬢。だが本当の試練はここからだった。軍艦島の桟橋は普通の島と違い浮橋のよう。しかも湾内ではなく外洋にあるので、接岸したはいいものの船は揺れに揺れている。とてもじゃないが立っていられない。両手を空け、手すりや天井に掴まりながら、腰を屈め一歩ずつゆっくりと歩いてゆく。ようやく「地面」に辿りついたときは心底ほっとした。

 全員上陸したのち、第一から第三まで3つの広場を繋ぐ見学コースに出発。コースは島の南西部、総合事務所や仕上工場といった採炭関連施設を巡るようなかたちで設定されている。広場ごとに立ち止まり、ガイドさんが詳しい説明をしてくれる

「このレンガ作りの建物が事務所です。中には炭鉱マンのための大きな共同浴場がありました。お湯は海水を沸かしたもの。全身炭で真っ黒になった炭鉱夫たちが入るので、お湯もいつも真っ黒でした。それでも過酷な採炭作業を終えたあとのお風呂は天国のようだったと言います」



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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