連載
アイランド・ホッパー
4 軍艦島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 Yさんの話を聞き、あらためて島を眺める。過疎化や高齢化は高島だけの問題ではない。わたしが子ども時代を過ごしたいわゆるニュータウンでもいまや過疎化が進み、商店街は消え、小学校は公共施設へ、さらには廃校へと追いつめられている。それでも高島がそういった「過疎の町」とどこか違う気がするのは、きっとかつて採炭事業という栄光の時代があったからではないだろうか。石炭が最大のエネルギー源だった時代、確かに高島は日本のいわば中心にあったのだ。採炭に関わる人びとは「じぶんたちがこの国を支えている」という誇りに満ちていたに違いない。光の時代があったからこそ、いまの影がより濃いものに映る。
 そしてそれは、完全な無人島になり、その特異さからかえって脚光を浴びるようになった軍艦島と皮肉にも好対照となり――観光地にもなり切れず、かといって生活の基盤となる産業も確立できないまま、もがくように生きる高島の「いま」と繋がっているのではないだろうか。

 そんなことを考えながら港に戻り、ターミナル内にある「小林食堂」へ入る。「懐かしい。25年前、フィールドワークで通っていたころ毎日のようにこの食堂でご飯、食べてました」Yさんの顔が輝く。わたしとM嬢は「五島うどん」を、Yさんはカレーライスをお願いする。カレーを口に運んだYさんが「うん、代替わりして美味しくなってる」さらに顔を輝かせる。
 お店のひとと話し込むYさんを見ながら思う。かつての「栄光」がこの島に戻ってくることはもうないかもしれない。けれど島を捨てず、その地で生きていくことを選んだひとがいる限り、きっと高島には違うかたちの未来が待っている。そしてその「未来」は、どこかでまたいまの日本と、そしていまを生きるわたしたちと繋がっていくはずなのだ、と。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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