連載
アイランド・ホッパー
5 座間味島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 今回の旅は企画段階から、なんというか一種の「あやうさ」を秘めていた。
 5回目となる「アイランド・ホッパー」は3月初旬に旅する予定で、「ならば」とわたしは思ったのである。「ぜひ座間味島でホエールウオッチングがしたい」と。
 担当M嬢に希望を伝えると「いいですね、いいですね」、快諾してくれた。さっそくふたりの予定を擦り合わせる。だが3月は互いに仕事が詰まっており、2泊3日といえどなかなか都合のよい日が見つからない。なんどかメールで打ち合わせを重ねたあげくM嬢からこんな提案を受けた。「いっそ4月にずらしませんか」
 4月ならば余裕がある。OKの返事を出そうとしてふと嫌な予感にとらわれ、ホエールウオッチングツアーのホームページを確認する。予感的中。すぐにわたしはM嬢に返信をした。「クジラは4月にはいないみたいよ」――わたしたちはあやうくクジラのいない海をウオッチングするところだったのだ。
 結局予定を早め、2月半ばに沖縄へ飛ぶことに。冬の海は荒れやすく、沖縄本島と座間味を結ぶ船便も欠航が多いと聞き、泊まりは那覇、日帰りで座間味島を訪れるという堅実なプランを立てた。かんじんのウオッチングも座間味で見られなかったときの「保険」として、那覇市内の三重城(みえぐすく)港から出港する別のツアーも入れることにする。  完璧だ。完璧な計画だ。旅程を眺めながらわたしは満足感に浸る。だがなぜかいちばん最初に感じた「あやうさ」は消え去ってはくれないのだった。

 2月の那覇の気温は17℃。風は少々冷たいが陽射しは初夏のように強く暖かく、厳寒の東京で固くしこったからだが緩やかにほぐされてゆくこころもちがする。ホテルに荷物を置いて、まずは那覇最大の見どころ、首里城を目指す。

 守礼門をくぐり抜け坂道を上ることしばし、濃い青空のした、深紅の首里城がすがたをあらわす。城といっても本土のそれとは違い、首里城は宮殿に近い。赤と金で豪奢に彩られた正殿は、かつて450年の永きにわたり琉球王が政務や儀式を執り行った場所である。国王の椅子の両脇には一対の金の竜。中国との関係が深かった琉球王朝らしく、調度品や挙げられた扁額(へんがく)には中国文化の影響が色濃くにじんでいる。

 湿度の高い土地柄のためか城の内部は開放的で、開け放った窓から気持ちのよい風が吹きこんでくる。琉球畳の敷き詰められた奥書院はいかにも居心地がよさそうで、昼寝に最適の場所に思えた。


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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化される。
最新刊『PTAグランパ!』ドラマ化決定!(NHKプレミアムドラマ 4月2日スタート 毎週日曜10時より放送 主演:松平健)
Back number
5 座間味島
4 軍艦島
3 八丈島
2 礼文島
1 桜島