連載
アイランド・ホッパー
5 座間味島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 夕飯はぜひとも沖縄料理をと思っていたのだが、「月イチで沖縄に出張する同僚から聞いた名店」(M嬢談)が惜しくも定休日ということで、今宵は焼き肉で精をつけようということに。入ったお店はモノレールの県庁前駅から徒歩5分、黒毛沖縄和牛専門店「Roins」。オリオンビールで乾杯したあと、まずはキムチ盛り合わせにナムル。つづいて厚切りタン塩、カルビとハラミの盛り合わせを頼む。脂が適度に乗った肉は、ひとくち噛むと、ほろほろ、口のなかでとろけてゆく。
「美味しいけど沖縄っぽくはないねぇ」カルビを頬張りながら言うわたしに、M嬢は、
「明日のお昼はぜひとも沖縄そばを食べましょう」決然と告げるのだった。

 翌日は快晴。泊(とまり)ふ頭から9時に出航する高速船「クイーンざまみ」に乗船して、まずは慶良間諸島の西に位置する座間味島を目指す。船は心配していたほどの揺れもなく、快適に進む。約50分で座間味港に到着。村営のホエールウオッチングツアーは同じ港から出発するのだが、海に向かう前にまずは待合室にて15分ほど簡単なレクチャーを受ける。

 我われがこれから見に行くのはザトウクジラであること、「ザトウ」とは座頭=盲人の意であり、潜るとき丸める背中が、座頭である琵琶法師のすがたに似ていることからその名がついたこと、乱獲のためかずっとこの海域では見つからなくなっていたが1982年に2頭が確認され、以来増えつづけていることなどを教えてもらった。ちなみに大人の体長は15メートル、子クジラでも5メートルはあるという。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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