連載
アイランド・ホッパー
6 田代島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 石巻駅で恒例の「ご当地ソフトクリーム」探し。今回は「ずんだソフト」が見つかった。以下M嬢の感想。「舌で掬(すく)うと香ばしい豆の香りが口いっぱいに広がり、甘さ控えめで美味しい。欲を言えばもう少しミルク感が欲しいところ」だそうである。
 別の取材に向かうM嬢とここで別れたわたしは、地下鉄東西線に乗り、終点の荒井駅を目指す。目的地は荒井駅に併設された「せんだい3・11メモリアル交流館」通称「メモ館」。ここで館長の八巻さんと落ち合い、メモ館を見学したあと、震災による大津波で壊滅的な打撃を受けた仙台沿岸部を案内してもらうことになっていた。

 八巻さんとは、わたしが07年に「仙台劇のまち戯曲賞」大賞を頂いて以来の長いおつきあいである。当時市民文化事業団で演劇事業に深く携わっていた八巻さんだが、メモ館の開館(16年2月)に合わせ初代館長に就任、以来メモ館の運営に勤しんでいる。
「おお、久しぶり。よくいらっしゃいました」数年ぶりに会う八巻さんは相変わらずおおらかで温かく、ひとを惹きつけてやまない魅力的な笑みを浮かべていた。
 メモ館は3階建て。1階は交流スペース。2階は展示室と、ワークショップなどに使われるスタジオがあり、3階はイベントにも使用できるという屋上庭園となっている。


 わたしが興味をひかれたのは展示室の半分を使った企画展だった。『それから、の声が聞こえる』と題された展示は、文章や写真ではなくまさに「声」、被災した仙台の人びとの声を集め、それらをさまざまなオブジェに閉じ込め、来館者に聞いて考えてもらうという非常にユニークな発想で作り上げられていた。

 たとえば真っ白なキャンドルの形をしたオブジェ。中心に向けて息を吹きかけると燈火を模した電球が灯る。そのキャンドルを手に取り、耳にあてると「声」が聞こえてくる仕組みだ。会場の隅にはおおきなベッドが一台。天蓋(てんがい)を支える柱にスピーカーが埋め込まれており、ベッドに腰かけて柱に耳をつけ「声」を聞くことができる。マットに身を預けると、天井のスピーカーから流れ降りてくる「声」が囁くように耳に入ってきた。
「声」の内容はさまざまだ。被災当日のようすを語る声、復興にかける意気込み。「もやもや」「カチカチ」といったオノマトペ、いわゆる擬音語が響くブースもあった。
 記録に残しにくい「生の声」を集め、それらを来館者がじぶんの耳で聞く。長く演劇に携わってきた八巻さん始めメモ館スタッフならではの企画だと感じた。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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