連載
アイランド・ホッパー
6 田代島 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

「ヘリコプターでの救助は1回につきひとりずつ。まず子ども、それから高齢者と女性という順番です。けれども1回飛び立ってしまうとなかなか次のヘリが来ない。子どもたちは毛布に包(くる)まり、屋上へつづくこの階段で夜の間じゅうずっとじぶんの番を待ちました」
 家族と離れ、余震や津波におびえながら待つ子どもたち。どんなに怖かっただろう、不安だったろうか。それでもみな、先生や地域のひとに励まされ、静かに待ちつづけたという。

 屋上からは、ぐるり、四方が見渡せた。なにもない、ただ雑草の生い茂る広い土地。けれどもかつてここは町だったのだ。家々がすき間なく建ち並ぶ、古い農漁村だったのだ。フェンス越しにかつての町を見下ろしながら山さんが静かに言う。「荒浜になにもなくなっても故郷を懐かしんで訪れるひとは多い。ぼくはこの荒浜小という震災遺構が、そういった方々に寄り添える場所になれればいいなと思っているんです」その思いがたくさんのひとに届きますように。そう祈りつつ荒浜小を辞去した。
 最後に八巻さんが案内してくれたのは荒浜の海岸だった。震災前はびっしり茂る広大な松林があり、海と集落をしっかり分けていたという。だがその松もいまやまばらに残るだけだ。


 堤防を越え、浜に下り立つ。寄せ返す波のほか、なんの音もしない。曇天のした黒く光る海は、ただひたすら穏やかにたゆたっている。けれどもあの日、大津波はここからやって来た。「来た」だけではない、いつか必ずまた津波は「来る」のだ。津波を震災を過去のものとして片付けてはならない。すべては未来に繋がっている。


 車に戻る途中、雑草のなかにかたまって咲く黄色い花をたくさん見かけた。八巻さんがぽつりと言う。
「なにもなかった荒浜に最初に生えたのがこの花なんです。以来ぼくのなかで黄色は希望の色、未来の色になりました」
 希望の色、未来の花。この光景を忘れずにいようと思った。こころのなかで生涯咲かせつづけようと、思った。




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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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