連載
アイランド・ホッパー
7 天草 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 天草と聞いて、皆さんはどんなイメージを持たれるだろうか。
 わたしの場合は天草四郎(あまくさしろう)の乱、隠れキリシタン、そして踏絵という歴史の教科書的3点セットがまず思い浮かぶ。ついで遠藤周作の名著『沈黙』と、そこに描かれる棄教のための過酷な拷問「熱湯責め」や「穴吊り」、それでも改宗しない者への苛烈極まる処刑方法=蓑踊(みのおど)り(藁にくるんで焼身させる)や磔刑(たっけい)のようすが次つぎと脳裏をよぎる。
 うう、痛そう。辛そう。苦しそう。小心者のわたしだったら拷問の「ご」の字を聞いただけで「踏みますとも。もう何回でも踏んじゃいますよ」と5秒で転んでしまうだろう。
 とにかく天草のイメージは、そんな「痛そうな島」であり、同時に重すぎる歴史を背負った「なんか暗そうな島」であった。だがこれはあくまでも個人的なイメージ。実際の天草はどんなところなのだろうか。弾圧や隠れキリシタンの実態は、そして過酷な歴史以外の天草の「顔」とはいったい――
 幸運にも友人の紹介で、特産品を商いながら天草の歴史を研究する青木賢治さんと、その従兄弟であり、隠れキリシタンの里・大江で代々大庄屋を継いできた八代目(!)松浦四郎さんという、これ以上ない強力な助っ人と知り合うことができたわたしは、担当編集者のM嬢とともに天草の謎に迫るべく、9月中旬、羽田から空路、天草へと向かったのだった。

 まずは中継地点である熊本空港へ。ここで天草エアラインに乗り継ぎ、天草へと向かう。この天草エアライン、なんと所有する航空機は1機だけ。親子イルカを模したプロペラ機「みぞか号」(天草弁で「可愛い」の意)が、たった1頭、いや1機で、熊本へ福岡へそして大阪へと休む間もなく飛んでいるのである。健気だ。頑張れみぞか号! わたしとM嬢、こころからのエールを贈る。
 20分間のフライトで天草空港に到着。わたしの人生で最も短い飛行時間だ。空港を出たとたん、強い日射しに目が眩む。
「南に来たって感じだねぇ」わたしのことばに「やっぱり東京より暑いですね」M嬢が頷く。
 天草は上島と下島の二島などで形成されている。今回訪れたのはキリシタン遺構の多い下島。有明海に浮かぶ島は、熊本とはいえ阿蘇や熊本城とはずいぶん離れており、どちらかというと長崎に近い。じっさい明治4年までは長崎府に属していたそうだ。ちょうど九州を約100分の1に縮めたようなかたちで、その西海岸にある富岡、大江、ア津地区に隠れキリシタンの文化がいまも息づいている。

 まずは歴史を学ぼうと向かった先は「天草キリシタン館」。市役所近くの高台に建つこの資料館には、永禄9年(1566)にキリスト教が伝来してからの南蛮文化や、天草・島原の乱、その後の隠れキリシタンの遺物などが豊富に展示、紹介されている。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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