連載
アイランド・ホッパー
7 天草 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 荒尾岳を下り、海岸に沿って車は大江集落へ。有名な「大江天主堂」のある村だ。白く輝く教会は思ったよりこぢんまりとしている。教会のすぐ横には信徒の墓地。日本風の黒い縦長の墓石の上に十字架が掲げられた、とても変わった作りをしている。青木さんによると「火葬するようになってからこのかたちになりました。土葬していた時代は、平たくて長方形の石を墓石として埋葬された場所に置いていたんですよ」とのこと。そういった墓を「キリシタン墓」と呼ぶそうである。

 掃除していた信徒のかたにご挨拶してから教会のなかへと入る。板張りの高い天井には水色やオレンジ色で紋章のような絵が描かれている。磨き抜かれた木製の信徒席の正面に祭壇が。決して華美ではなく、家族的で温かみのある祭壇である。アーチ形の窓に嵌(は)めこまれたステンドグラスからは、色彩豊かな外光が射し込んでくる。

 現在の大江天主堂が建てられたのは昭和8年(1933)。明治25年にこの地を訪れたフランス人のガルニエ神父のもと、信徒たちがちからを合わせて建設した。昭和16年、81歳で没するまで布教に努めたガルニエ神父は、その温厚で誠実な人柄から大江のひとたちの尊敬と信頼を一身に集めたという。そんな神父の人柄がきっとこの教会の醸し出す親密でおだやかな雰囲気の源となっているのだろう。
 大江天主堂を辞し、ちょっと遅めのランチを取るため四人でア津漁港に面した寿司処「海月(くらげ)」へ向かう。ここのお寿司の美味しいこと! 汁物、小鉢、デザートがつくランチセットは、赤イカから〆(しめ)のカステラ寿司まで全9貫。目の前のカウンターでご主人が一貫ずつ握って出してくれる。そのどれもが例えば真鯛ならおろしポン酢、炙り鯖はごま油と塩など醤油をつけずに食べられるよう工夫が凝らされている。厚切りのネタはすべて目の前の港で揚がったもの。シャリが小ぶりなので、魚の旨みが思う存分味わえる。海の見えるロケーションも素晴らしく、味と景色、双方に感激しつつ頂いた。




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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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