連載
アイランド・ホッパー
7 天草 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

 わたしたちが訪れたのは「丸尾焼」と「水の平焼」の2軒の窯元。
 最初に伺った「丸尾焼」では、駐車場の奥に明るく開放的なギャラリーが設けられており、湯呑みや碗、大皿からカフェボウルまでじつにさまざまな器が美しくディスプレイされている。ギャラリーの一角にはカフェスペースもあり、緑豊かな芝生の中庭を眺めながら美味しいお茶やコーヒーがいただける。陽光が降りそそぐこのカフェでオーナーである金澤一弘さんに話を伺った。

「丸尾焼の創業は弘化2年(1845)。丸尾ヶ丘周辺で採れる粘土質の赤土を用い、主に水鉢や醤油甕(がめ)などの大物を作っていました。西南の役のときは『棺桶が足りない』ということで、大甕に3分の1ほど水を張り、海に浮かせたものを船で引っ張って運び、商ったという記録もあります。現在は生活空間をより豊かにしてくれるような日用品を裏の工房で作っています」

 せっかくなので工房にもお邪魔することに。明るく風通しのよい工房では、土練りから加飾(絵付け)、そして週に一回の本焼きまで多岐にわたる工程を息子さん3人を中心としたスタッフが粛々と行っている(ちなみに息子さんたちは『丸尾イケメン3兄弟』と呼ばれているそうな)。
 可愛らしい模様の入ったもの、釉薬(ゆうやく)の風合いを活かしたもの。どれもがみな魅力的で、かつ現代の暮らしに合うモダンさを持ち合わせていた。
 つづいて車で5分ほどの「水の平焼」に移動。「丸尾焼」が現代風とすれば、こちら「水の平焼」は、伝統を守りつつ天草の風土に根ざしたもの作りを心掛けた、いわば対極にある作風と言えようか。

 

 こぢんまりとした店内で話を聞かせてくれたのは八代目の窯元、岡部祐一さん。「水の平焼」は天草で一番古く、創業は明和2年(1765)。釉薬を二重にかけ発色させることで、複雑さと深みを醸し出す「海鼠(なまこ)釉」を初代より受け継いでいる。
「原料となる粘土は、歩いて10分ほどの水の平という土地のもの。釉薬の原料となる木灰や藁灰、土灰もすべて近在のものを使っています。『海鼠釉』という名は、まさにナマコに似た色合いから。うちでは赤海鼠と青海鼠、2種類を焼いています」と言われ、改めて店内を見回す。赤茶の肌に精妙な白い斑(ふ)の入った赤海鼠、そして青緑から黒に近い藍色まで一つひとつ風合いの違う青海鼠の器がぎっしり並んでいる。手作りの焼き物ゆえ、同じものは一つとしてない。「世界に一つだけの器」を買い求めることができるのだ。
 隣接する工房には作成途中の焼き物がすき間なく置かれ、窯に入る日を待っている。煉瓦を積んで作った登り窯も残っており、歴史の重みを感じる。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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