連載
アイランド・ホッパー
7 天草 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

「採土場も見てみますか」と誘っていただき、水の平へ。一見、なんてことはない雑草の茂ったちいさな丘だが、ここで約300年間粘土を掘り、素材としてきたのだ。


「そのうちなくなっちゃいませんかねぇ」お馬鹿な質問をするわたしに岡部さんは「あはは」と笑い、「300年かけてこれですから、まだまだだいじょうぶですよ。丘がなくなったら地面を掘っていけばいいですし」と明快なこたえを返してくれた。
 岡部さんと別れ、一路空港へ。働きものの「みぞか号」に乗り、今日は福岡経由で帰京する。

 途中、お願いして見晴らしのよい高台で車を停めてもらう。なだらかな斜面に畑と水田がはろばろと広がる。長いながい一本道の先には山々の峰が霞んで見える。島というより大陸的な風景だ。
 気持ちのよい風に吹かれながら青木さんがつぶやく。
「もっともっと天草のことを皆さんに知ってほしいです。歴史と文化に彩られ、美味しいものもたくさんある。海に出ればイルカと会うこともできるし、温泉だって湧いている。一度来て下されば、きっとファンになってもらえる島だとぼくは思うんです」
 その通り、青木さん。現にすっかり天草のファンになってしまった人間が確実にふたり、ここにいる。

 

 さて今回の旅の掉尾(とうび)を飾るのは、おなじみM嬢の「ご当地アイス・ホッパー」。五和町(いつわまち)で店を開く「サンタのアイス工場」にて、名産・天草塩を使った「塩バニラ」をいただく。その感想は――
「手作りならではの丁寧で、作り手の気持ちがいっぱいつまった、なめらかで、濃厚でこれは……天下無双です」だそうだ。
 2泊3日では回り切れないほどの魅力に溢れた島、天草。来島前の「痛くて暗そうなイメージ」はすっかり消え飛び、優しさ、温かさに包まれながら島をあとにしたわたしだった。



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〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は「ニュータウンクロニクル」(光文社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
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