連載
アイランド・ホッパー
10 奄美大島(最終回) 中澤 日菜子 Hinako Nakazawa

「着いた……ほんとうに着いた」
「奇跡的ですね……」
 奄美(あまみ)大島空港の到着ロビーで、わたしと担当M嬢は、なかばぼう然としながらつぶやいた。
 7月初旬。関東地方は例年になく早い梅雨明けを迎え、真夏のような天候の日々がつづいていたのだが、ここにきて台風7号の影響か梅雨前線が活発になり、九州から北海道まで全国的に荒天に。出発した羽田空港でも遅れや欠航が相次ぎ、なかには離陸したはいいものの目的地に着陸できず、羽田へ引き返す便も多くみられた。
 そんな大嵐のなか、奄美群島だけはぽっかりと雨を逃れ、おおきな揺れや遅延もなく、無事空港に着陸できたのだった。
 とはいえロビーの窓から見上げる空はどんよりと重たげに曇り、いつ降り出してもおかしくない空模様である。どうかこれ以上天候が悪化しませんように。祈りつつ空港を出、車で奄美一の繁華街名瀬(なぜ)に向かう。
 今回の旅のテーマは島唄。島唄というと沖縄を思い浮かべるかたが多いかもしれないが、もともとは奄美群島が発祥の地であるという。現地で生の島唄や唄者(うたしゃ)の話を聴き、唄の生まれた背景を探る――そのふたつを楽しみに東京から飛んできたのだった。
 奄美大島は南北に細長い島だ。平坦な土地は少なく、島とは思えぬほど高い山々が面積のほとんどを占めている。海沿いのわずかな平地に点在する集落は、背後に狭い畑地を持ち、その後ろにはすぐ切り立った山。いまでこそ道路が整備され、北と南の行き来も楽になったが、かつては舟で向かうしかないほどそれぞれの集落は隔絶されていたという。だからであろう、奄美では集落を「シマ」と呼ぶ。島唄の島はそのシマ、つまり「我が村の唄」という意味なのだという。
 確かに車窓から眺める風景は、圧倒的に山が多い。厚い葉のみっしり茂った広葉樹が山裾から山頂までを覆いつくし、この山を徒歩で辿(たど)るのはさぞ難儀だろうと思わせる。平地のところどころにサトウキビ畑、水田はほとんど見られない。

 途中、遠方からでも客が訪れるというジェラートのお店「La Fonte」に寄る。この店は当地の「いずみ農園」の直営店。おかげで農園直送のフルーツを使った、ここでしか味わえないジェラートが楽しめる。この日のメニューはマンゴーやパッションフルーツ、特産の黒糖や真塩(ましゅ)など計10種。そのなかから2種類をチョイスする仕組みだ。
 迷ったすえ、わたしは真塩とマンゴー、M嬢はすいかと黒糖を選ぶ。真塩は濃厚なクリームを塩がきりっと引き立て、後味がとてもさっぱり。マンゴーはさすが農園直送、まるで生のマンゴーを齧(かじ)っているような濃厚さだ。そしてM嬢の感想は――「黒糖もスイカもめちゃめちゃおいしいですぅ。あっという間に食べちゃいましたよ!! たまんないですよね、この味一度知ったら奄美に着いたらまず真っ先に食べたくなりますよ!」



 
〈プロフィール〉
中澤 日菜子(なかざわ ひなこ)
1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学 文学部卒業。日本劇作家協会会員。
2013年に『柿の木、枇杷も木』で第八回小説現代長編新人賞を受賞。翌年タイトルを『お父さんと伊藤さん』に改め同作で小説家デビュー。16年映画化された。最新刊は『Team383』(新潮社刊)。2017年11月号より小説すばるで長編小説「石灯る夜」を連載中。
Back number
10 奄美大島(最終回)
9 壱岐
8 直島
7 天草
6 田代島
5 座間味島
4 軍艦島
3 八丈島
2 礼文島
1 桜島