連載
雪とタンチョウと釧網本線
第一章 釧路湿原2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura


 大学の同窓で、現在、刑事弁護士の若柳豊が、来てくれた。
 小柴は、釧路警察署の中で、若柳に会った。
「逃げたい」
 と、小柴は、いきなり、若柳に、いった。
「君は、無実なんだろう?」
「もちろんだ」
「それなら、逃げる必要はない。私が、全力で君を弁護する」
「それが、駄目なんだ」
「何が、駄目なんだ?」
「私は、二重に、犯人のワナに、かけられた。七年前と、今度とだ。だから、このままでは、裁判でも負ける可能性が、強い。私としては、逃げて、自分で犯人と戦いたいんだ」
「無理をいうな」
「刑事弁護士になった時、危険があるので、自己防衛のために、小型のナイフを、いつも、持ち歩いてると、いっていたな。今も、そのナイフ、持っているのか?」
「ああ、誰にもいわないが、持っている」
「それを、私に渡してくれ」
「どうするんだ?」
「まず、逃げる」
 小柴は、いきなり、手を伸ばして、若柳の上衣の内ポケットから、小型のナイフを奪い取った。
「悲鳴をあげろ!」
 と、ナイフの刃を出して、それを、若柳の、のどに当てた。
「助けてくれ!」
 と、若柳が、叫ぶ。
 二人の刑事が、飛び込んできた。
「近づくと、弁護士を殺すぞ!」
 小柴は、ナイフの先を、弁護士ののどに当てたまま、ゆっくり立ち上がった。
 取調室を出る。
 玄関に向かって、じりじりと、近づいていく。
「車で来たのか?」
 小柴は若柳にきいた。
「釧路の法律事務所の所長を知っているので、運転手付きの彼の車に乗ってきた」
「では、その車で、逃げる。悪いが、途中まで、一緒に動いてもらう」
 玄関から、飛び出した。
 近くにとめてある車のリア・シートに転ぶように、飛び込んだ。
「早く車を出せ!」
 小柴が、運転手に向かって、怒鳴った。
 運転手が、思い切り強く、アクセルを、ふみ込んだ。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第七章 雪の日のタンチョウ(最終回)
第六章 幻のタンチョウ
第五章 事件の予感
第四章 レントゲンの影
第三章 釧網本線2
第三章 釧網本線
第二章 身代金一千万円2
第二章 身代金一千万円
第一章 釧路湿原2
第一章 釧路湿原