連載
雪とタンチョウと釧網本線
第二章 身代金一千万円 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 午後九時、十津川は、北海道から戻ってきたばかりの若柳豊と、新宿のホテルの中にあるバーで会った。この時間、落着いて話せるのは、ホテルの中と考えたからである。
 バーには、二人のほかに客の姿はなかった。バーテンに聞くと、店は午後十一時までだというので、二人は、すぐ本題に入っていった。
「君に、何とかして、小柴を助けてもらいたいんだ」
 若柳が、単刀直入に、いう。
「もちろん私だって、できることなら、そうしたいと思っている。しかし、私は、東京の警視庁の刑事だからね。公務員だ。いくら親友だからといっても、小柴一人のために勝手に動くことはできないよ」
「それは分かっているんだが──」
「幸いなことに、北海道警から、警視庁に、捜査協力の要請があった。レンタカーの中から死体となって発見された、坂口あやという女性についての捜査依頼だよ。彼女が、東京の青山のモデルクラブに所属していたモデルだということは、すでに、北海道警に報告してある。今度は、容疑者の小柴が逃走したので彼の逮捕についての協力要請も、北海道警から来ているんだ。私と小柴とが大学時代の友人であることは、北海道警も、すでに分かっている。だから、表だって、小柴を助けることは出来ないが、そのほかのことで、協力できるのではないかとは思っている」
「いったい、どんなことで、助けてくれるんだ?」
「小柴は『SL冬の湿原号』の車内や釧路湿原で、背の高い怪しい男を目撃しているといっているんだろう? 七年前、恋人の及川ゆみが失踪した時にも、その男を見かけたと、いっている。だから、私としては、この男が、いったい何者なのか、それを、調べることによって、北海道警に協力し、同時に、小柴の無実を証明できるんではないかと考えている。北海道警は、小柴が、本当のことをいっているのか、それとも、苦し紛れに、ウソをついているのか、判断しかねているようだからね。その怪しい男が、本当に、実在するのかどうかを調べてほしいと、こちらに、協力を要請してきているんだ」
「私はもちろん、小柴のいうことを、信用している」
 と、若柳が、興奮した口調で続ける。
「問題は、小柴が写真に撮ったその中年男なんだ。小柴は、この男が、七年前の彼の恋人の失踪の時にも、自分の近くにいたといっている。年齢は四十歳から五十歳、身長は一九〇センチくらいの長身だ。痩せ形で、一見するとサラリーマンのように見える。その男のいちばんの特徴は、Dが三つ並んだバッジを胸に、つけていることだ。その三つのDは、デンジャラス、ドラッグ、デスだと君はいっていたな」
 若柳の言葉に、十津川が、笑った。
「いや、あれは、冗談だよ。そんな危険なグループに入っている男じゃないかという想像だよ。普通に考えれば、そんなふざけたバッジをつけているはずがないからね。そこで、調べてみたら、3Dの意味が、わかった」
「本当か?」
「うちの刑事が、Dが三つ並んだバッジを社章にしている会社を見つけてきたんだ」



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
Back number
第七章 雪の日のタンチョウ(最終回)
第六章 幻のタンチョウ
第五章 事件の予感
第四章 レントゲンの影
第三章 釧網本線2
第三章 釧網本線
第二章 身代金一千万円2
第二章 身代金一千万円
第一章 釧路湿原2
第一章 釧路湿原