連載
雪とタンチョウと釧網本線
第三章 釧網本線 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 三月一日の早朝、弁護士の若柳が、十津川に電話をしてきた。
 というよりも、大学時代の親友が、十津川に電話をしてきたといった方が、適切かもしれない。
 その電話の中で、若柳が、いった。
「今朝早く、小柴から電話があったんだ。大至急、釧路に来てくれというんだ。理由をきくと、一言しかいわなかった。女性の生死が、かかっている。それだけだ。十津川にも来てほしいといっている。行けるか?」
 十津川は迷った。
 十津川は現在、警視庁捜査一課の刑事である。休みの日であれば、勝手に動いても、構わないが、今は勤務中である。その勤務中に、いくら、一人の女性の生死がかかっているからといって、勝手に、釧路に行くわけにはいかなかった。
 十津川が迷っていると、亀井が、声をかけてきた。
「行った方がいいですよ」
「カメさんは、どんなことなのか、分かっているのか?」
「警部の顔色を見ていれば、分かりますよ。大学時代の親友が、大変なことに、なっているんでしょう? それなら行った方がいいですよ。行かないと、後悔することになりますから」
 と、亀井が、いってくれた。
 十津川は、一応、二日間の、休暇願を出しておいて、若柳に会うために、羽田空港に急いだ。
 出発ロビーに行くと、若柳は、先に着いていて、十津川の分の航空券まで、用意して待っていた。
 二人はすぐ、釧路行きの飛行機に乗った。
 飛行機の中で、十津川が、きいた。
「今回の事件の背景には、七年前の小柴の恋人の、失踪事件があると聞いている。しかし、詳しいことを、私は、何も知らないんだ。もし、君が、知っているなら、釧路に着くまでに、簡単に話してくれないか?」
「簡単に話すのは難しいが、まあ、話してみよう」
 と、若柳が、いう。
「ただ、この事件には、いまだに、よく分からない部分もある。それを、承知の上で聞いてくれ」
「分かった」
「七年前、日本に3Dブームが押し寄せてきていた。3D映画が次々に封切られたり、アメリカから、3Dプリンターが、輸入された。日本でも、大企業が3Dプリンターを、作り出したが、あまりにも、高価だったので、それを買おうという者は、ゼロに近かった。その点、アメリカから輸入された、3Dプリンターは、値段の高いものもあったが、安いものもあって、多くの若者が、安い3Dプリンターを使って、自分の作りたいものを、作っていた。中には拳銃を作る者もいて、それが、大きな、社会問題になったりもした。そんな時に起きた失踪事件なんだよ」
「七年前といえば、たしか小柴は、その時にすでに、大東電気に就職していたはずだね?あの頃、大東電気は、アメリカから3Dプリンターを輸入していたんじゃなかったかな?」
 十津川が、きいた。



1     次へ
 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
Back number
第七章 雪の日のタンチョウ(最終回)
第六章 幻のタンチョウ
第五章 事件の予感
第四章 レントゲンの影
第三章 釧網本線2
第三章 釧網本線
第二章 身代金一千万円2
第二章 身代金一千万円
第一章 釧路湿原2
第一章 釧路湿原