連載
九州観光列車の旅
第一章 或る列車 西村京太郎 Kyotaro Nishimura


 雛祭りの前日、警視庁捜査一課の十津川班が捜査していた殺人事件が突然、解決した。この事件は、「国務大臣が逮捕されそうな殺人事件」と呼ばれていた。
 最初は小さな事件に見えた。
 去年の十月七日の早朝、井の頭公園の池に、中学一年生・十二歳の少女の死体が浮かんでいるのが発見された。少女の名前は、丹羽清美。三鷹に住むサラリーマン夫婦の長女だった。死体解剖の結果、死因は窒息死と分かった。何者かが、十二歳の少女の細い首を絞めて窒息死させたのである。前日、中学校の帰りに行方不明になり、両親が警察に届け出た直後だった。
 解剖の結果、体にいたずらをされた痕跡があった。それを知らされた十津川は、同じ様な事件が三か月前に神奈川県平塚付近の海岸で、起きている事を思い出した。
 被害者は十歳の少女で、名前は渡辺さやか。横浜の商店街に店を持つ家の次女で、外人墓地の近くにある小学校の五年生だった。
 彼女の場合も、学校を出て自宅へ帰る途中、何者かに誘拐され、翌日、湘南海岸の平塚付近でうつ伏せになった死体として発見された。同じ様に首を絞められての窒息死で、体にはいたずらされた形跡があった。
 二つの事件に共通点がある事から、警視庁捜査一課と神奈川県警捜査一課との、合同捜査という事になった。

 更にその四か月前にも、沖縄の石垣島で似たような事件が起きている事が分かって、すぐ、十津川と亀井刑事が石垣島に飛んだ。
 きれいな石垣島の海岸、そこで去年の三月十日に、東京から家族で遊びに来ていた高橋かりんという小学五年生、十歳の少女が殺されていたのである。この少女も前の二人と同じ様に首を絞められ、体を犯されて殺されていた。そこで、東京と神奈川、それに沖縄県警の三者で、合同捜査が行われる事になった。
 この三つの殺人事件で、マスコミには発表されていない秘密があった。
 殺された三人の少女、その左の二の腕に、犯人が彫ったと思われる「KK」の刺青(入れ墨)が施されていた事である。いわゆる花文字と言われるデザイン的なKの文字が二つである。
 しかも、その刺青は、犯人が少女を殺した後、死体の二の腕に彫った物と思われた。犯人を特定出来る一つの証拠である。神奈川県警と沖縄県警が捜査中秘密にしておいた犯人の痕跡だった。それに倣(なら)って東京で捜査を進める十津川班も、刺青についてはマスコミには内緒に捜査を進める事にした。捜査会議でも、この「KK」の刺青は秘密事項とされた。うまくいけば、この刺青から容疑者を発見できるかも知れないと期待した。その期待が、実現する時が来たのである。
 それは偶然だった。被害者の刺青があぶり出した容疑者の名前を見て、十津川たちは驚いた。小西栄太郎だったからである。年齢は七十歳。著名な政治家だった。過去に外務大臣や厚労大臣を歴任した事もある。現在は政界を引退した形になっているが、依然として政界に力を持ち、良心的な政界人として、人気があった。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第一章 或る列車2
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