連載
九州観光列車の旅
第一章 或る列車 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 九州の場合は、有名な列車デザイナーがいて、彼の設計したさまざまな形の観光列車が、作られ、走っている。この「或る列車」は、そのデザイナーが設計したというよりも、明治三十九年頃、九州には九州鉄道という私鉄が走っていて、その鉄道会社がアメリカに、列車の設計や製造を依頼し、作られたのが豪華列車の「九州鉄道ブリル客車」通称「或る列車」だというのである。
 当時としては、日本で最も豪華な設備を持った幻の客車になるはずだったが、発注した「九州鉄道」が国有化されてしまった為に、この豪華列車が走る事はなかった。このままだったら空想の豪華列車で終わってしまうはずだったのだが、最近亡くなった原信太郎という鉄道模型の神さまといわれた人が、走らなかった、この豪華列車の模型にして作成しておいたのである。
 精密な模型として残していた豪華列車、それを今回JR九州が、模型から逆に実際の豪華列車を製造し、それを、走らせる事になったというのである。二両編成と小さいが、車内はとにかく豪華に作られている。
 そして、パンフレットの最後には、「或る列車」という「ARU」の説明があった。Aは「AMAZING=素晴らしい」、Rは「ROYAL=豪華なデザイン」、そして最後のUは「UNIVERSAL=世界中で愛される列車」。それを続けて「ARU 或る列車」というらしい。
 ところが、「或る列車」の乗車心得なるものを読んで、亀井は面食らった。
 あの「ななつ星」を作ったJR九州らしく、誰でも「或る列車」に乗れるわけではなく、難しい乗車心得が作られているのだ。
 第一は、「団体専用列車のため、時刻表等には掲載されません」となっている。
 幸い、健一は鉄道ファンなので、あるファンクラブに入っており、亀井もそのクラブに入った。小さなクラブだが、団体である。
 第二は、「車内は大きなお荷物を置くスペースがございません。大きなお荷物を持ち込む場合は予めお申し出下さい」
 これは、亀井親子とも、小さなリュックを使っているから、大丈夫である。
 第三には、「十歳未満のお子さまは、ご乗車いただけません」
 幸い、健一は、十一歳だから、辛うじて合格である。
 第四、「或る列車への飲食物のお持ち込みは、ご遠慮下さい」
 第五、「服装について、特に定めたものはございません」
 第六、「車内で軽食(NARISAWA)とスイーツ三品、ミニメルディーズ(お茶菓子)をご提供します」
 第七、「オプシャルメニューやお子さま用のメニューのご用意はございません」
 第八、「或る列車は、途中の駅で乗降することができません」
 他に、長崎駅一四・五三発(全席指定席)→佐世保駅一七・三五着。列車内には、一四時三九分頃よりご乗車いただけます。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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