連載
九州観光列車の旅
第一章 或る列車 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 最近は、この観光列車の上を行く「クルージングトレイン」と呼ばれる豪華列車もある。
 JR九州の「ななつ星」が、その例だが、料金も高い。それなのに、人気が高く、切符はなかなか、手に入らない。
 これが成功してから、JR東日本と、西日本が、同じようなクルージングトレインを走らせることを発表した。JR東日本の「トランスイート四季島」であり、JR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞鳳」である。
「走るホテル」とか「一車両一室」と宣伝していて、豪華であることは間違いないが、とにかく高い。一週間ぐらいの日程で、一人七五万とか、一室二名で一四〇万といわれるのに、乗車希望が多く、切符の入手は、大変らしいのである。
「或る列車」の方は、そんなには高くはないが、それでも長崎―佐世保と短い区間なのに、大人は二万四千円、子供は二万三千円である。
 嬉しいことに、亀井と息子の切符は、手に入った。
 その切符が送られてきた。
 或る列車、座席指定券(二名用個室)とあり、カメイ様と、打たれていた。
 長崎駅発一四・五三→佐世保着一七・三五 1号車 28個室

 健一は、その切符を、一日中ひねくり回していた。

 八月二日。
 三日間の休暇は貴重なので、亀井は、健一を連れ、珍しく長崎まで、飛行機で飛ぶことにした。
 亀井としては、妻や娘も連れて行きたかったのだが、娘は、鉄道ファンではないうえ、ミッキーマウスのファンだから、亀井たちが九州に行っている間に、妻とディズニーランドへ行ってくると言った。
 結局、亀井は、息子の健一と二人旅行ということになった。
 羽田空港から、一〇時〇五分発の飛行機である。雨の気配はなくて、亀井は、ほっとしたが、日差しは厳しかった。
 三日間は、台風の近づくこともなさそうである。
 正午すぎに長崎空港着。
 こちらも暑い。リムジンバスで空港から町まで行く。
 時間があるので、昼食を取ることにして、中華料理の店に入る。亀井は、家を出る時、長崎で昼食になるだろうから、その時には、長崎名物の「長崎ちゃんぽん」を食べるぞと、宣言していた。十一歳の健一は、あまり気が進まないようだったが、父親の言うとおりに長崎ちゃんぽんを食べた。
 その後、いよいよ、長崎駅から問題の列車に乗車である。
 一四時五三分発だが、一四時三九分頃までに集合下さいと、言われているので、亀井たちは、時間に合わせて、長崎駅の一番のりばに行った。
 すでに「或る列車」は、ホームに入っていて、ホームには、乗客が、集合していた。健一にはほとんどが見覚えのない顔だった。どうやら、乗客は小さな鉄道ファンクラブの人間たちの中から抽選されたらしい。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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