連載
九州観光列車の旅
第一章 或る列車 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 亀井が、肩書きつきの名刺を渡すと、ようやく駅員も緊張した顔になって、すぐ駅長に電話してくれた。駅長室で、もう一度、亀井は事情を説明した。
 駅長は佐世保駅構内に付けてある監視カメラを、調べてくれた。今着いた「或る列車」の乗客たちがホームに降りて、改札口を出ていく所が写っていた。
 しかし、何回繰り返して見ても、その乗客たちの中に健一の姿はなかった。
 駅長が、佐世保警察署に電話をしてくれた。やって来た刑事に事情を話し、自分のカメラで撮った健一の写真を見せた。
「小学校五年生ですよ。夏休みで連れてきたんです。小柄な方ですが、鉄道ファンで、列車の中でもやたらに写真を撮っていた。当然、終点に着いたら一緒に降りて来るものだと思ったのに、いなくなってしまったんです」
 佐世保警察署は、亀井のカメラに保存されていた健一の写真を現像し、コピーを取り、それを、署員に配布して、駅周辺を捜してくれる事になった。亀井は、落ちついてはいられなくて、携帯で東京にいる十津川警部に連絡した。
「今、佐世保です。息子が九州の観光列車に乗りたいと言うので、『或る列車』という長崎発佐世保行きの観光列車に二人で乗ったんですが、終点の佐世保に着いたところ息子の健一が消えてしまったんです。今、こちらの警察で捜してもらっていますが、訳が分かりません」
 その話に、十津川はすぐには返事をしなかったが、間を置いて、
「ひょっとすると、これは大変な事かも知れないぞ」
 と、脅かすような言い方をした。今度は亀井の顔色が変わった。
「事件だとすると、誘拐ですか?」
「そうだよ」
「しかし、貧乏刑事の子供を誘拐したって、しょうがないでしょう」
「だから、事件だと言っているんだ。あと二日休暇があるね」
「そうです。申し訳ありませんが、その間はこちらで、健一を捜そうと思っています」
「私もすぐ、そちらに行く。これは、間違いなく事件だと思うよ」
 十津川が繰り返した。
 佐世保警察署員が健一の写真を持って駅周辺を捜してくれていた。もちろん、亀井自身も市内を、捜し歩いたが、一向に、見つからない。夏休みが続いているので、佐世保市内も、子供の姿が多かった。
 が、その中に健一の姿はない。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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第五章「二つの力」2
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第一章 或る列車2
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