連載
九州観光列車の旅
第一章 或る列車2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 警察は少しずつ、捜索の範囲を広げていった。その途中で羽田から飛行機で、十津川が到着した。
 十津川は、疲れ切った顔の亀井に会うなり、
「ここの署長に会いたいね」
 と言った。署長に会うなり、十津川が言った。
「これは誘拐の匂いがします。そのつもりで協力お願いします」
 と頭を下げた。
「しかし、どうして亀井刑事の息子さんが誘拐されたと、思うんですか?」
 署長が、当然の質問をする。
「東京で、十代の少女ばかりを狙った殺人事件がありましてね。その容疑者として、政治家が逮捕されました」
「その事件なら知っていますよ。確か、小西栄太郎でしたね」
「その事件で亀井刑事が活躍して、政治家のアリバイを、崩したんです。事件に絡んで、亀井刑事の息子さんが誘拐されたのではないかと、思っているんです」
「しかし、そんな事をしても、逮捕された小西栄太郎は、釈放されたりしないでしょう?」
「そうです。だから尚更気になるんですよ」
 十津川が繰り返した。
 夜になっても、健一は見つからなかった。その代わりの様に、佐世保市内を走るタクシー会社の運転手が、佐世保警察署を訪ねて来た。受付で、小さなカメラを渡して、
「こちらに東京の刑事さんが来ている筈だから、このカメラを、渡してくれるように頼まれました」
 と言う。
 受付の警官は、タクシーの運転手を待たせておいて、カメラを署内にいた十津川と亀井の二人に、見せた。途端に亀井の顔色が変わって、
「これは、息子の健一のカメラですよ」
 と言い、カメラに保存されている何枚かの写真を画面に映し出した。それを見て、いっそう、亀井の顔が強張った。どの写真も、今日乗った「或る列車」の車内を撮った物だからである。
「このカメラを、持って行く様に言ったのは、どんな人でしたか?」
 と、亀井が、タクシー運転手に聞いた。
「中年の男でやせていました。年齢は四十代じゃないですかね。佐世保市内から博多まで行ってくれと言うので、仲間の運転手に、それを頼んで、カメラを届けに来たんです。たぶん、もう博多駅に着いているはずです」
 と、運転手が言う。
 その客の似顔絵を、まず作る事になった。男にしては小柄で、大きなサングラスをかけているので、顔つきは、はっきりしない。
「このカメラを私に届ける様に言った。他に、何か言っていませんでしたか?」
「私にはカメラを届けてくれ、それから急いで博多に行きたいと言うので、今、言ったように同僚を呼んで後は任せました」
「そちらは、この時間には、博多駅に着いているはずだね?」
「そう思います」
「連絡取れないかね?」
 亀井が聞く。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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