連載
九州観光列車の旅
第一章 或る列車2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「やっぱり警部の言われた通りでした。犯人は、例の事件と関係があるんです」
「問題の手紙は今、事件を担当する河辺検事の所にある。それを渡せば、健一君は解放されるんだな?」
「犯人がそう言っているだけです。私にはそんな事は出来ません。個人的な感情で、殺人事件の容疑者を逃がす訳には、いきませんから」
 と、亀井が言った。
「それについて、二人だけで、考えてみよう。犯人はまた電話してくる」
 と、十津川が言った。
 十津川が予想した通り、十五、六分してまた男が電話をかけて来た。
「明日になったら東京へ帰れ。君が東京に帰った頃を見計らってまた電話する」
 と、男が言った。
「健一は無事なんだろうな?」
「もちろん無事だ。大事な人質だから、殺したりはしない。しかし、そっちの対応いかんでは殺すぞ」
 と、犯人は脅かし、
「とにかく明日だ。東京に帰っていなかったら、その場合も君の息子を殺すぞ」
 と、言って、電話を切ってしまった。
 深夜になっていたが、佐世保警察署の刑事たちが集まって、捜索の報告があった。刑事たち、それにほかの署員を含めて健一の写真を持って、佐世保市内を動き回ったのだが、どうしても健一と思われる少年は、見つからなかったという報告である。
「しかし、分からないのですよ。いくら考えても、『或る列車』から健一は降りて来なかったんです」 
 と、亀井が言う。
「しかし、たった二両の列車だから、いつまでも子供が車内にとどまっていたら、見つかる。だから、健一君は列車から降ろして、犯人が連れ去ったんだ」
「駅の中の監視カメラをいくら見ても、健一は、写っていないんです」
「いや、写っているはずだ」
 十津川は、監視カメラの映像を繰り返して見ることにした。佐世保警察署の刑事たちも、署長を含めて一緒に、その映像を見た。
 何度見ても、健一と思われる少年は写っていない。
「健一君は、男の子としては、小柄だったな?」
 と、十津川が、聞く。
「そうです。一年生の時から、ずっと教室では一番前でした」
「それなら犯人は大きなトランク、或いはリュックサックに入れて、佐世保駅から連れ出したんだよ」
 と、十津川が言った。
 確かに、大きなトランクを引いた乗客の姿も写っているし、大きなリュックを背負った乗客もいる。
「しかし、大きな荷物は禁止の筈ですが」
「乗る時は中をカラにして小さくし、降りる時に大きく出来るトランクやリュックもある筈だ」
「たぶん、エーテルをかがせて眠らせてから、トランクかリュックに健一君を、押し込んで、佐世保駅から運び出したんだよ」
 と、十津川が、続けて言った。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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