連載
九州観光列車の旅
第一章 或る列車2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 そのつもりで、もう一度、監視カメラの映像を見る。
 確かに、大きなトランクを引いている乗客もいれば、大きなリュックを背負っている乗客もいる。
 しかし、似顔絵の男が、見つからない。
「いませんね」
 と、佐世保署の刑事が言う。
「しかし、いるんだよ。そうでなければ、亀井刑事の息子がいなくなる筈はないんだ」
 と、十津川が言った。
 更に、もう一度、映像を見直す。
 その途中で、十津川が、映像を停めて、
「たぶん、こいつだ」
 と、サングラスをかけ、トランクを引っ張っている女を、指さした。
「女ですよ」
 と、刑事の一人が言った。
「そうだよ。男の変装だ。タクシー運転手が言っていたじゃないか。男にしては小柄で、やせていたと。たぶん、その男は、列車の中で女装していたんだ。女の方が子供は安心するからね。健一君も、別に警戒せずに、彼女の個室に入ったんだろう。『或る列車』の模型を見せられたのかも知れない。個室に連れ込んだ犯人は、薬で健一君を眠らせて、トランクに押し込んだ。たぶん、そのトランクは、もともとカラだったんだと思う」
「その後、男に戻った訳ですか?」
「そうだ」
「しかし、子供を押し込んだトランクは、見つかっていません」
「共犯者が佐世保駅に待っていて、トランクを受け取ったんだと思う。共犯者は車を持っていて、健一君の入ったトランクをその車に積んで、走り去ったんだと思う。行き先は、たぶん東京だ」
「なぜ、東京に向かったと思われるんですか?」
 と、亀井が聞く。
「犯人は、例の事件の為に、君の息子さんを誘拐したんだ。だとすれば、舞台は、いやでも東京になる」
 と、十津川が言った。
「健一は、無事だと思いますか?」
 と、亀井。
「もちろん、無事だ」
 と、十津川は強い口調になって、
「犯人は、あの事件の裁判で、有罪の証拠になる女の手紙を消したいんだ。だから、それが成功するまで人質の健一君は、絶対に殺したりはしない」



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第一章 或る列車2
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