連載
九州観光列車の旅
第一章 或る列車2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 翌朝、十津川と亀井は、一応、犯人の指示に従って、東京に帰ることにした。
 福岡までパトカーで送って貰い、福岡からは飛行機で羽田に向かった。
 三上刑事部長に報告し、密かに捜査本部を作って貰った。
 誘拐事件の対策本部である。
 犯人は亀井の携帯に連絡してくると思えるので、亀井に携帯を持たせたまま、動かない事にした。
 そこで、十津川が、地検の河辺検事と話し合う事にした。
 まず、十津川が、亀井の息子、十一歳の健一が誘拐され、犯人から脅迫電話があった事を話した。
「犯人の要求は、ただ一つ、問題の手紙を盗み出して渡せというものです、それが出来なければ、亀井刑事の十一歳の息子を殺すと」
「亀井刑事は、どうしています?」
 と、河辺が聞く。
「表面上、犯人の要求は拒否すると言っています」
「十津川さんは、どう考えているんですか?」
「誘拐された健一君は十一歳で、小学五年生です」
「それで?」
「しっかりと見て、しっかり考える事が出来る年齢です。記憶力もあります。要求を受け入れても、人質を解放するとは思えません」
「それでは、犯人の要求は拒否すべきだと?」
「人質が殺されます」
「しかし、どちらにしても、亀井刑事の息子さんは殺されると、そう考えておられるんでしょう?」
「そうですが、拒否した場合は、健一君の助かるチャンスはゼロです。要求を受け入れた時は、助かるチャンス、助ける時間は出来ます」
「それでは、十津川さんは、犯人の要求を呑めという訳ですか?」
「そうです。そうすれば、わずかですが、健一君を助けるチャンスは生まれます」
「難しい話ですね」
 と、河辺が言った。
「地検の答えは決まっています。犯人の脅迫には屈するなです」
「そうでしょうね」
「従って、十津川さんが何と言おうと、こちらの返事は決まっています」
「分かりました」
「しかし、そちらが、どんな考えを持っていても、地検が関知するところではありません」
「そうですか」
「もちろん、その責任は、そちらに取って貰いますが」
 と、河辺が言った。
 十津川は、捜査本部に戻ると、亀井に向かって、
「犯人の要求に、いったん承諾していい。地検は、われ関せずと言ってくれる」
「分かりました」
 その直後に、亀井の携帯が鳴った。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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第一章 或る列車2
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