連載
九州観光列車の旅
第一章 或る列車2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 男の声が、いきなり言った。
「時間だ。こちらの言う通りにするか? 答えろ」
「もう少し、待ってくれ」
「子供が死んでもいいんだな?」
「私は警視庁の刑事だ」
「だから?」
「犯人の要求に屈する事は出来ない」
「それなら、君の息子を殺す。電話を切るぞ」
「待ってくれ!」
「どうするんだ?」
「あと一時間、待ってくれ。自分を納得させたいんだ。下手をすれば警察の名誉を傷つけたとして、馘首されるんだ。だから、一時間待ってくれ」
「駄目だ」
「四十分は?」
「駄目だ」
「三十分」
「今から十分。それ以上は駄目だ。いいか、今から十分だぞ。それまでに覚悟を決めておけ」
 男は、電話を切った。
 亀井は、十津川や同僚の刑事たちに向かって、
「簡単にオーケーしたのでは、犯人に疑われるので、迷っている事にしましたが、あと十分したら、どちらかにしなければなりません。犯人の要求に従うつもりですが、その後どうするかが問題です」
「地検は問題の手紙を、我々に渡してくれるんですか?」
 と、日下が十津川に聞いた。
「地検は、手紙を渡してくれる。が、その後の責任は取れないと言っている」
「コピーを作っておいて、手紙を犯人に渡したらどうですか?」
「それは駄目だ。そんなことは、犯人も考えるよ」
 と、十津川が言った。
「問題は、手紙と亀井健一君との交換だと思います。それがうまくいけば、後は何とかなると思います」
 と、北条早苗刑事が言った。
 亀井は、時計を見た。時間は容赦なく経っていく。
 亀井は、あせり気味に、みんなに向かって言った。
「間もなく、犯人が電話をしてきます。今度引き延ばしたら間違いなく、犯人が疑いを持ちます。だから、オーケーします」
 と、亀井が言った時、彼の携帯が鳴った。

【つづく】



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第一章 或る列車2
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