連載
九州観光列車の旅
第二章 男と女の動き 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 十津川は、日下と津村の二人の若手刑事を、亀井刑事の住所のあるマンションに確認のために行かせることにした。
 その二人が、
「自宅マンションには、誰もいません。亀井刑事はもとより、奥さんも娘さんもいなくなっています。マンションの管理人に会って話を聞いたところ、亀井刑事の奥さんが管理人のところにやって来て、事情があって、しばらく、実家に帰ってきますと、そう言ったそうです。そのあと、娘さんを連れて、マンションを出ていったそうです」
 と、言う。
「実家に帰っていると、奥さんは、たしかにそう言ったんだな?」
 と、十津川が、聞いた。
「そうです」
 と、日下が、言った。
「亀井刑事の奥さんの実家というのは、どこなんですか?」
 と、津村刑事が、聞いた。
「前に、カメさんに聞いたことがあるんだが、カメさんの実家は、青森で、奥さんの方は、たしか、山形の筈だ」
 と、十津川は、言ってから、念のために自分の手帳を調べて、
「ああ、やっぱりそうだ。山形市内だ」
 亀井刑事の妻の実家の山形の住所を、二人の刑事に伝えてから、
「君たち二人は、そこからまっすぐ、山形に向かってくれ。本当に亀井刑事の奥さんが、山形の実家に帰っているのかどうかを確認したいんだ」
 と、言った。
 緒方検事は、この時、霞が関の、東京法務局にいた。彼は、一週間後に迫った公判に備えて、ここで、法廷に提出する証拠書類を、再確認していた。
 検察側が最も大事にしているのは、もちろん小西栄太郎宛てに、彼の愛人である今西けいこが、出した手紙である。これがパソコンで打たれたものであったのなら、それほど価値の高い証拠にはならなかったのだが、幸い、小西栄太郎の好きな毛筆で、書かれている。
 これが、今西けいこの自筆であることを、証明するために、彼女が、筆で書いた書類数点を取り寄せていた。それを、丁寧に机に並べて、筆跡を比べてみる。筆で書かれているため、今西けいこの筆跡の癖が、よく出ている。
 もちろん、すでに、科捜研に筆跡の鑑定をしてもらっていて、同一人の筆跡と認められるという鑑定結果を、得ていた。
 今回の事件で検察側が提出する書類や捜査の状況などについては、警察の捜査日誌に記入されているので、それをもう一度、最初から、読み直した。
 沖縄、東京、そして、神奈川と、三、四か月ごとに幼女殺人事件が起きた。緒方は、この三件が同一犯人による殺人であることを、法廷で証明しなければならない。
 他にも再確認しておきたいことは山ほどあった。今日は、法務局で、徹夜になるかも知れない。
 緒方検事は、同じ部屋にいる吉田刑事と秋山刑事に向かって、
「コーヒーを、淹れてくれないか」
 と、頼んだ。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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