連載
九州観光列車の旅
第二章 男と女の動き 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 吉田と秋山の若い二人の刑事は、緒方の手足となって、証拠物件の確認のために動いてくれたり、足らない証拠物件を、探してくれたりもしていた。更に緒方のガード役も兼ねている。
 吉田刑事が、棚からインスタントコーヒーを取り出して、コーヒーカップを三つ並べている時、突然、大音響と共に窓ガラスが割れ、カーテンがまくれ上がった。
 何か黒いものが、勢いよく部屋に飛び込んできた。飛び込んできたのは、何やら黒っぽい物体で、ブルブルと小刻みに体を震わせている。
 よく見るとドローンだった。
「緒方検事、下がって下さい」
 と、吉田が、言った。
「もしかすると、爆発物が、搭載されているかも知れません」
 と、秋山が、青ざめた顔で、言う。
「いや、大丈夫だ。爆弾は、ついていない。もし、そんな物騒なものがついていれば、窓ガラスを割った時に、すでに、爆発しているはずだよ」
 緒方が、落ち着いて言う。
 吉田刑事が、割れた窓ガラスの隙間から外に目をやった。
 窓の外には、日比谷公園が、広がっている。暗い夜の闇の中に、何かが潜んでいるのではないか?
 ドローンの犯人が、緒方の部屋を狙って飛ばしたのであれば、その犯人が、暗い日比谷公園のどこかに、まだ、潜んでいる可能性があった。
 吉田刑事は、めくれ上がったカーテンを閉め直した。
「緒方検事、これから、どうされますか? 私は、どこかに移動した方がいいと思いますが」
 と、吉田刑事が、言った。
 緒方検事は、落ち着いた声で、
「そうだな」
 と、うなずいてから、
「今は無事だったが、ここにいたら、次は、爆弾を放り込まれるかも知れないね」
「犯人は、緒方検事と一緒に、証拠物件を、焼いてしまおうと企んでいるのかも知れません」
 と、吉田が、言うと、
「この東京法務局で、火事を起こしたりしては、申し訳がない。千駄ヶ谷の自宅マンションに帰ることにするか」
 と、言ったが、そのあと緒方検事は、ちょっと、考えて、
「いや、おそらく犯人も、私が、自宅マンションに戻ると思っているだろう。そこで、こうしよう。君たちのうちのどちらか一人が、私に化けて、千駄ヶ谷のマンションに、行ってくれないか」
 と、提案した。
 二人の刑事のうち、秋山刑事のほうが、背格好が、緒方検事によく似ていた。
「今日は薄ら寒かったので、コートを着て、帽子をかぶってきた。それで犯人の目をごまかせるかも知れない。秋山刑事が、私に代わってタクシーを呼び、私のマンションに、行ってみてくれ」
 緒方検事は、秋山に、マンションの鍵を渡した。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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