連載
九州観光列車の旅
第二章 男と女の動き 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 秋山刑事が緒方検事のコートを着、帽子をかぶってから、日頃利用しているタクシー会社に電話をかけ、東京法務局の入り口に迎えに来てくれるようにと、頼んだ。
 緒方は、自分のカバンに週刊誌と新聞を入れて、ふくらませてから、秋山刑事に、
「これを持って、私のマンションに、行ってくれ。さも大事そうに抱えて持っていれば、このカバンの中に、問題の手紙も入っていると思うだろう。犯人が、その手紙を奪おうとする可能性がある。だから、気をつけて行ってくれ」
 と、言って、送り出した。
 その後、緒方検事は、都内のKホテルに、電話を入れて予約した。Kホテルの本館の方、二一〇五号室、ツインルームである。
 部屋に入ると、緒方検事は、すぐルームサービスを頼み、コーヒーとケーキを持ってきてくれるように頼んだ。
 その後、緒方検事は、警視庁に、電話をし、十津川警部に、今夜起きたこと、東京法務局で仕事をしている時に、窓ガラスを破って、ドローンが飛び込んできたこと、そこで、千駄ヶ谷の自宅マンションに、帰ったと見せかけて、現在、都内のKホテルの二一〇五号室、ツインルームに、吉田刑事と移ってきていて、今日は、たぶん徹夜で、来週の公判の準備をしていることを知らせた。
 緒方検事から電話があった時、十津川は、ちょうど、山形から帰ってきた二人の若い刑事から、話を聞いていた。
「亀井刑事の奥さんの実家に行ってきました。娘さんはいましたが、奥さんの姿はありませんでした。どうやら、奥さんは、山形の実家に、娘さんを預けた後、自分自身は、別の行動を、取っている気がします。おそらく、亀井刑事を助けるために東京に行ったのではないでしょうか?」
 と、日下刑事が、言った。
 十津川が、
「私も同感だ」
 と、言った時、緒方検事からの電話が入ったのである。
「すぐ東京法務局の周辺を調べます」
 と、十津川は、答えてから、
「千駄ヶ谷と、Kホテル周辺も、これから刑事を派遣して調べます」
 と、言った。
「ただ、私が、千駄ヶ谷の自宅マンションに帰ったと思わせるため、秋山刑事に身がわりになってもらっている。実は私は、吉田刑事と一緒に、Kホテルの二一〇五室にいるので、その点も含んでいただきたい」
 と、緒方検事が、言った。
 十津川は、すぐ、自分を含めた部下の刑事たちを三つの班に分け、ただちに、出発させた。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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