連載
九州観光列車の旅
第二章 男と女の動き2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 十津川は、二人の刑事に、その場を任せてから、千駄ヶ谷にある緒方検事の自宅マンションに、向かった。
 少しずつ時間が、経過していく。まもなく夜が明けるだろう。
 千駄ヶ谷のマンションに着いた。
 三階まで上がっていくと、三〇二号室の前で、津村と日下刑事、そして秋山刑事が待っていた。秋山は、十津川の顔を見るなり、こう言った。
「うまく芝居をしたつもりだったのですが、犯人らしき者は、現れません。芝居を見抜かれてしまったのかも知れません」
「本当に、誰も、現れなかったのですか?」
 と、十津川が、聞いた。
「自分では、うまく芝居をしたつもりだったのですが、やはり相手には、バレていたようです。誰も訪ねてきませんし、電話も、かかってきません」
 と、秋山刑事が、言う。
 十津川は、秋山刑事の話を聞いているうちに、次第に不安になってきた。まだ緒方検事が襲われたというニュースは入ってこないが、こちらの作戦は、すでに見通されてしまっているのではないのか? 
 もし、そうだとすれば、もう一組の行動の方が心配になってくる。
 十津川は、秋山刑事に、緒方検事と吉田刑事の二人の所在を確認し、
「すぐに連絡してみて下さい」
 と、言った。
 秋山は、慌てて携帯で連絡している。
「かかりません」
 と、秋山が、言う。
「すぐKホテルに行こう」
 と、十津川が、言った。
 十津川たちは、都内の四谷にあるKホテルに急行した。
 Kホテルの玄関には、ひっきりなしに車が入ってくる。それでも普段と変わったようなところは見えなかったが、エレベーターで二十階に上がると、そのフロアだけが、どこか異様な緊張感に、包まれていた。
 エレベーター乗り場から、廊下がまっすぐ延びている。その廊下の二〇一五室の前で、救急隊員と緒方検事が何か話しているのが見えた。そばには、三田村刑事と北条刑事の姿もある。二人がホテルに着いた時には、すでに、事件が起こったあとだったという。
 十津川が、緒方検事に駆け寄り、
「大丈夫ですか?」
 と、声をかけた。
 緒方は、十津川の顔を見ると、ホッとした表情になって、
「吉田刑事が負傷して、今、病院に運ばれていきましたが、大丈夫です。命に別状はありません」
 と、答える。
 十津川が、さらに、見据えると、廊下の奥の非常口の扉が開いていた。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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