連載
九州観光列車の旅
第二章 男と女の動き2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 翌日、十津川は、三上刑事部長に呼ばれた。いきなり、
「今朝の新聞を見たか?」
 と、聞かれた。
「今朝は、まだ見ておりませんが」
「Kホテルで、現職の刑事を殴った犯人の写真が、載っている」
 そう言って、三上が、今朝の新聞を、突きつけた。
 Kホテルの裏出口の監視カメラに、写っていたという、犯人の写真である。
「新聞に載っている記事を読むと、Kホテルの非常口から、逃げてきた犯人が、ホテルの裏口の監視カメラに写っている写真だ。目出し帽は、脱いでいるが、ご覧のように大きめのサングラスをかけ、帽子を目深にかぶっているので、顔はよく分からない。ただ、新聞によると、身長百七十センチ、体重六十五、六キロと、書いてある。どうだ、その写真は、亀井刑事か? それとも、別人か?」
「これだけでは、私には、判断できません。ただ、亀井刑事も、身長は百七十センチぐらいで、やや、痩せ型ですから、写真の男と体型は、合っています」
「もちろん、私としては、写真の男が亀井刑事であってほしくはないと、思っている。それで、君に、頼むのだが、何とかして、この写真の男が亀井刑事ではないという、証拠をつかんでくれ」
 と、三上が、言った。
 十津川は、捜査本部に、新聞を持ち帰ると、刑事たちを招集し、写真の男が亀井刑事かどうかを、議論させた。
 どの刑事も、写真の男が、亀井刑事であってほしくないから、この写真だけでは、男が、亀井刑事かどうかは、判断できないと、全員が、言った。
 そんな空気の中で、女性刑事の北条早苗は、
「写真の男が左手にはめている腕時計が何となく気になります」
 と、言った。
「君もそう思うか?」
 と、十津川が、言った。
「やはり、警部も気になりますか?」
「これは、たしか、国産の電波時計で、ソーラーにもなっている。したがって、普通の腕時計よりも、大きめに作られている。そのことが、気になっているんだ」
 と、十津川が、言った。
 たしか、亀井刑事は一年ほど前、少し大きめの腕時計を買い、ソーラーの電波時計なので、電池を入れる必要がないし、時刻を合わせる必要もないから便利だと喜んでいたのを、十津川は、よく覚えていた。
 十津川は密かに、男の左手首の部分だけを、拡大してもらった。
 その結果分かったのは、やはり、あの時計だということだった。
 しかし、十津川は、そのことを、誰にも言わず、北条早苗にも、
「これだけで犯人が、亀井刑事だと判断されるわけじゃないから、このことについてはしばらく黙っていてくれ」
 と、言った。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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