連載
九州観光列車の旅
第二章 男と女の動き2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 ほかにも、十津川が、困るようなニュースが引き続いて起きた。
 その一つは、拘置所に、収容されていた小西栄太郎が、突然、心臓発作を起こして、飯田橋の警察病院に移されたという一件だった。そのために、裁判が一週間延期されることになったのだが、それに絡んで、十津川の耳に入ってきたことがあった。
 問題の手紙の主、料亭の女将、今西けいこが、店を閉めて、行方をくらましてしまったのだ。
 十津川は全力で、彼女の行方を追った。何しろ、彼女が書いた、小西栄太郎宛ての手紙が唯一の、決め手であり、今も二人の間には、愛人関係があると、見られていたからである。
 小西栄太郎が、心臓発作を起こして、拘置所から警察病院に、身柄を移された、まさに、その日に、今西けいこは店を閉めて行方をくらませていた。
 うがった見方をすれば、彼女が動いたのは、小西栄太郎が、警察病院に移ったからに違いないのだ。
 そこで、飯田橋の警察病院の周辺をくまなく、探してみると、やっと、今西けいこが見つかった。
 警察病院の近くに、最近できたビジネスホテルがあった。そのホテルの、警察病院に近い部屋を、彼女が、一週間借りていたのである。
「話を聞きに行こう」
 と、十津川は、北条早苗刑事を連れて、飯田橋の、ビジネスホテルに行き、今西けいこに会った。
 十津川は、今西けいこが、一週間借りたという部屋で、話を聞きたいと言ったが、彼女の方は、一階のロビーでしか、話をしないと主張した。
 五階の部屋を借りて、何か、企んでいるのだろうとは、思ったが、今はまだ、事件の容疑者というわけではないので、十津川は、北条早苗と一緒に、一階のロビーで、けいこから話を聞くことにした。
 彼女に会うなり、十津川が、聞いた。
「お店の方が臨時休業になっていたので、探したんですよ。どうして、お店を休んで、このビジネスホテルに、泊まっているんですか?」
「いろいろあって、疲れたんです。それで、どこかのホテルで、しばらく休養しようと思ったんですが、適当なホテルがなくて、ここを、やっと見つけたので、チェックインしました。深い意味はないんです。ただ疲れただけですから」
 と、けいこが、言う。
「小西さんが体調を崩されて、警察病院に、入院した。もちろん、そのことはご存じですね?」
「いえ、全く、知りません」
「しかし、このホテルの隣が、飯田橋の警察病院で、小西さんは、そこに、入院しているんですよ。あなたが、そのことを、知らないはずはないんですがね。正直に言ってくれませんか? それがあって、このビジネスホテルに、泊まっているんじゃありませんか?」
 十津川は、しつこく聞いた。
「いえ、そんなことはありません」
「しかし、小西さんは、まだ、あなたのことを、自分の愛人だと言っているそうですよ、あなたの方は、どうなんですか? 違うんですか?」
 と、北条早苗も、聞いた。
「たしかに、そんなこともあったかも知れませんが、今は、違います。昔のことは、もう忘れました」
「しかし、一週間延びた、公判が再開すれば、あなたは、必ず、証人として裁判に呼ばれることになりますよ。その時、小西さんについて、どんなふうに、話すつもりですか?」



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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