連載
九州観光列車の旅
第二章 男と女の動き2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 今西けいこは、しきりに小西栄太郎との関係は、もう終わったとか、もう関心がないと繰り返したが、十津川が気になったのは、弁明の言葉ではなくて、話し合いの途中に頻繁に、今西けいこの携帯に、外から電話がかかってくることだった。
 そのたびに、けいこはロビーを出て、話をしては、戻ってくる。
 十津川は、皮肉を込めて、
「人気者なんですね。よく、電話がかかってきますね」
 と、言った。その言葉をどう受け取ったのか、
「ほとんどが、何の用事でもない電話なんですよ」
 と、けいこが、言った。
「用のない電話が、そんなに、かかってくるんですか?」
「急にお店を、閉めたので、それを、心配して、どうなったのか聞いてくるお客さんもいらっしゃいます。そのたびに、少し休みたいのでと、答えているんですけど、なかなか信じて頂けなくて」
 と、言う。
 十津川は、同行した、北条刑事に、しばらくこのビジネスホテルに泊まって、今西けいこのことを、監視するようにと命じておいてから、彼自身は、隣にある飯田橋の警察病院に回ってみた。
 警察手帳を示してから、病院の副院長に会い、話を聞いた。
「今、小西栄太郎が、こちらの病院に、入院していますよね? 病室が、どこか分かりますか?」
 と、十津川が、聞いた。
「五階の五〇一号室です」
「この病院の隣に、最近できたビジネスホテルが、ありますね。小西栄太郎が収容されている五〇一号室の窓から隣のビジネスホテルが、見えるんじゃありませんか?」
 と、十津川が、聞くと、副院長は、笑って、
「いえ、見えませんよ。あのホテル側には、病室の窓はありませんから」
「それは間違いありませんね?」
「ええ、間違いありません」
 と、言ってから、副院長は眉を寄せて、
「ただ、五〇一号室の窓から隣のビジネスホテルは見えませんが、五〇一号室のある廊下のトイレに入ると、その窓から向こうのホテルを、見ることができますが、病人はたいてい廊下のトイレではなく、自分の部屋にあるトイレを使いますから」
 と、言った。
「そうですか」
 と、一応うなずいたが、十津川は、少しばかり心配になってきた。そこまで知って、今西けいこが、隣のビジネスホテルを、それも五階を、一週間借りたのではないかと思ったからである。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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