連載
九州観光列車の旅
第二章 男と女の動き2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 十津川は、迷っていた。
 亀井刑事の行方は、依然としてつかめないし、亀井の奥さんの消息も、つかめていない。
 ただ、小西栄太郎が、警察病院に入院してしまったので、公判が一週間延期になった。そのおかげで、事件そのものの、動きが止まってしまったように見えていた。
 十津川が不思議に思うのは、その空気だった。何しろ、公判で、有罪・無罪が決まろうとしている男は、保守党の大物政治家である。それなのに、政界に対する影響は、ほとんど感じられなかったし、新聞やテレビなどマスコミの動きもほとんどないのである。
 そこが、どうにも、十津川には不思議だった。
 そこで、十津川は、中央新聞の社会部にいる友人の田島に会いにいった。
 夕食をともにしながら、十津川が、自分の疑問を、そのままぶつけてみると、田島は、うなずいて、
「今回の事件は、俺だって不思議で仕方がないんだ。小西栄太郎の有罪が決まれば、現在の与党、特に小西派に大きな影響が出る。普通なら、今からその影響を、何とか押さえようとして、派閥の幹部たちが、動くはずなんだ。ところが、その動きもない」
「今度の裁判だが、小西栄太郎の有罪は動かないと見られている。それで、政界に何の動きもないんじゃないのか?」
「たしかに、そんなふうに、考える者もいる。それならば、小西栄太郎が逮捕された時に、彼と関係のある政治家たちは、その被害を、最小限に押さえようとして動くはずなんだ。しかし、今になっても何の動きもないんだ」
「理由は?」
「分からない。ただ、これは、俺だけの想像なんだがね、もしかすると、今の小西栄太郎の裁判なんかよりも、もっと大きな傷を、与党の政治家に、与えてしまうような、そんな大きな事件が見えないところで、起きているんじゃないかと想像しているんだ。普通なら、隠された事件の方が、顔を見せるんだが、小西栄太郎の犯罪が、いかにも今日的で、猟奇的で、マスコミが飛びつきやすい事件だったために、大きな事件が、そのために、隠れてしまっている。そんなことがあるんじゃないだろうか? だから、もっと大きな事件の当事者たちは、小西栄太郎の事件の方に、マスコミの関心がいってしまっていることに、ホッとしているんじゃないのか。そんな気がして仕方がないんだよ」
 と、田島が、言った。
「もっと大きな事件って、例えば、どんな事件なんだ?」
 と、十津川が、聞いた。
「それは、俺にも分からない。だから、困っている」
 と、田島が、繰り返した。

(つづく)



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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