連載
九州観光列車の旅
第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 一瞬、亀井は、ここに鉄道マニアの健一がいたら、この特急列車に喜んで乗っていたに違いないと、そんなことを思っていると、また携帯が鳴った。亀井が出る。犯人が言う。
「いいか、よく聞け。今乗っている特急『いさぶろう一号』は、終点の吉松に一一時二二分に着く。吉松駅には、同じくJR九州の特急列車『はやとの風一号』が、待っている。乗り換えの時間は三分しかない。だから急いで乗れ。切符は車内で買えばいい。また、その時間になったら、電話する」
 現在、亀井が乗っている特急「いさぶろう一号」は二両編成である。車掌に聞くと、終点の吉松駅で特急「はやとの風一号」に接続する様になっている。吉松駅から先は、「はやとの風一号」になり、この特急列車の行き先は、鹿児島中央である。
 何も知らない車掌は、にっこりしながら、
「特急『いさぶろう』に乗ったお客様は、特急『はやとの風』に接続しますから、今日中に、二本の観光列車に乗ることが出来るんですよ」
 と言った。
 時刻表どおり、亀井の乗った下り特急「いさぶろう一号」は、終点の吉松に一一時二二分に到着した。その吉松駅にもう一つの特急、「はやとの風一号」が、ホームに停車していた。なるほど、特急列車の乗り継ぎである。犯人が言ったとおり、乗り換えには三分しかない。
 亀井は急いで、二両編成の特急「はやとの風一号」に乗り込んだ。すぐ発車する。これまでと同じ、肥薩線である。
 一時間近くで隼人の駅に到着した。この辺りは、九州では山の中だと言っていいだろう。緑がやたらにまぶしい。隼人からは一二時二一分頃発車して、鹿児島中央へ向かった。
 この二十一分前の東京。十二時ジャストに十津川の携帯が鳴った。
 すぐボイスレコーダーに接続してから、十津川は電話に出た。十二時ジャストである。
「どうした、手紙は手に入れたか?」
 と、犯人が聞いた。
「ああ、手に入れた。どうすればいい」
「その手紙にふさわしい人の所へ、渡してこい」
「手紙にふさわしい人?」
「その手紙の受取人だった小西栄太郎だよ。小西栄太郎は発作を起こして、東京駅八重洲口の八重洲病院に、入院している。そこには、手紙を書いた今西けいこが行っている筈だ。病室のナンバーは、三階の三〇六号室。そこへ行って、今西けいこでもいいし、小西栄太郎でもいいから、その手紙を渡すんだ。その手紙を書いた女性と、本来ならその手紙を受け取るべき人間が、病室に二人ともいるんだから渡して何も言わずに帰ってくるんだ。それから、言っておくが、手紙のコピーを取るなよ。もし、コピーをしていたら、亀井刑事の息子は容赦なく殺す」
 そう言って犯人は電話を切った。
 十津川は、わざと、女性刑事の北条早苗を呼んで、問題の手紙を、渡した。
「これを、東京八重洲口の八重洲病院、そこの三〇六号室に入院中の小西栄太郎に渡してきてくれ。見舞いに来ている今西けいこでもいい。とにかく、何も言わずに渡して帰ってくればいいんだ。それから、途中でコピーする様なことはするな。下手に動くと、亀井刑事の息子が死ぬんだ」
 北条早苗刑事は、三田村刑事と二人で、わざとパトカーは使わず、タクシーで東京八重洲口の八重洲病院に向かった。
「君が持っているその手紙が、唯一の証拠だから、それを相手に渡してしまったら、たぶん小西栄太郎を釈放せざるを得なくなるだろうね」
 三田村が早苗に言った。

 



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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第五章「二つの力」2
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第四章「別件逮捕」2
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第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風2
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第一章 或る列車2
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