連載
九州観光列車の旅
第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 一時三十分、東京。十津川の携帯が鳴った。また犯人からかと思ったが、聞こえたのは、亀井刑事の声だった
「亀井です。今、九州にいます。鹿児島中央です」
 と切れ切れに、亀井が言った。
「息子さんはどうしている?」
「突然、健一が、釈放されました。今、鹿児島中央のホテルに息子と一緒にいます。何故、犯人が突然息子を解放したのか分からないんですが、そちらで犯人と、何か取引をされたんですか?」
「いいか、カメさん。何も考えずに息子さんを山形市の実家にいる奥さんの所に送ってから、すぐ東京に帰って来い。相談したいことがあるんだ」
 と十津川が言った。
「しかし私は、すでに退職届を」
 と亀井が言う。十津川は語気を強めて、
「とにかくすぐに東京へ来てくれ。これは命令だ」
 と怒鳴った。
 亀井はすぐ、妻と連絡を取り、息子の健一を預けてから、東京に戻った。
 十津川をはじめ、刑事達が揃って出迎えてくれたが、亀井は簡単には、笑顔になれなかった。
「皆さんのお陰で、息子は釈放されました。しかし、それなりの取引が犯人との間にあったと思うんです。そうでなければ犯人が息子を返すとは思いませんから。そうなると私は大変なことをしてしまったんじゃありませんか?」
「いや、君は何のミスも犯していないよ」
 と十津川が言った。
「しかし」
「いいか、これからの捜査は、何とかして小西栄太郎を再逮捕して、起訴し、公判に持って行く。それだけの必要な証拠を、見つけ出すことだ。それから、亀井刑事の息子を誘拐した犯人の逮捕だ」
「やはり、あの手紙を弁護側に渡したんですか?」
「いや、焼いてしまった。そんなことはもういい。元々、愛人の手紙などで犯人を起訴することに、私は反対だったんだ。もっとしっかりした、逃げようのない殺人の証拠を掴みたい。それが私の願いだ。これから、亀井刑事には、もう一度、捜査をやり直して貰う。今からだ。それでは、日下刑事と一緒に小西栄太郎が入院している八重洲病院に行って、病気の状況、それを調べてきてくれ」
 十津川は、とにかく亀井刑事を、若い日下刑事と一緒に、押し出した。
 その他の刑事にも、新しい捜査方針を示しておいて、十津川は、緒方検事と今後の方針について、話し合うことにした。



1      次へ
 
〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
Back number
第六章「亀井救出の道」2
第六章「亀井救出の道」
第五章「二つの力」2
第五章「二つの力」
第四章「別件逮捕」2
第四章「別件逮捕」
第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風2
第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風
第二章 男と女の動き2
第二章 男と女の動き
第一章 或る列車2
第一章 或る列車