連載
九州観光列車の旅
第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「どうも私には、不思議で仕方がないんです」
 と十津川が言った。
「どこがですか?」
「さっき、小西栄太郎が緊急入院した八重洲口の病院に電話して、彼の病状について聞いてみたんです。彼を診察した医者の話では、不整脈が続いていて、余命はあと一年ではないか。そのくらい身体は弱っていると、医者が教えてくれました」
「余命一年ですか?」
「そうです。医者は、奥さんにもそのことは話してある。本人も知っていると、言っています」
「そのことと、今回の裁判と何か関係がありますか」
 と緒方検事が聞く。
「その裁判ですが、有罪と宣告されても、当然、弁護人は上告するでしょう。上級審判で有罪となっても、向こうは上告しますよ。そうなれば、最高裁まで行き、一年ぐらいは、すぐに経ってしまいます。余命一年の医者の診断が正しければ、その間に小西栄太郎は亡くなっている筈です」
「小西栄太郎が、公判で勝てば、政界再建に間に合うんですかね? また内閣の要職に就く可能性はあるんですかね?」
「私の友人に新聞記者がいるんですが、彼に聞いたら、まず無理だろうと言っていましたね。逮捕され、起訴された時点で、内閣の要職に就く可能性は消えた。その上、心臓病で余命一年と診断されたら、政治の中心に返り咲くのは完全に断たれたと、言っていましたね」
「それなのに、子供を誘拐してでも、小西栄太郎の無罪を勝ち取ろうとする理由が分かりませんね。どんな人間たちが、それを実行しているのか、私には想像がつかないのですよ」
 と緒方が言う。
「小西栄太郎の名誉の為ですかね。公判で勝っても、政界で要職に就くのは無理だと、記者は見ていますからね。しかし、例の手紙が消えて、無罪になっても、その為に誘拐事件を起こしていますからね。そちらの罪で逮捕されることを、考えなかったんですかね?」
 と十津川も疑惑を口にした。
 その上、余命一年である。
 いったい誰が誘拐を考えたのだろうか? その時、冷静にプラス、マイナスを計算したのだろうか?
 そこが不可解だと、十津川が言い、緒方検事も同感なのだ。
「私が小西栄太郎の弁護人だったら、とにかく、全力で裁判を引き伸ばし、判決で有罪だったら、上訴を重ねますね。そうして様子を見ます。余命一年を考えて」
 と緒方が言う。
 二人のそんな疑問が、すぐ現実になった。
 心臓発作で一週間の公判延期になっていた小西栄太郎の裁判が新しい医師団の診断で、更に一か月の延期が決まったのである。
「冠動脈疾患」と病名も発表された。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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