連載
九州観光列車の旅
第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 亀井の説明に続いて、十津川が「亀井刑事の不可解な一日」について、自分の解釈を話し始めた。
「今回犯人は電話(携帯)を使って、東京の私たちと、九州の亀井刑事を操っていたのです。まず犯人は、亀井刑事に、八時三一分熊本発の下り特急『いさぶろう一号』に乗れと命じました。この列車は、終点の吉松に一一時二二分に着く。ここで別の特急『はやとの風一号』に接続しているから、その特急に乗り換え、終点の鹿児島中央まで行けと、命令しました。この特急列車が鹿児島中央に着くのは、一二時五二分です。つまり、八時三一分から一二時五二分まで、犯人は亀井刑事を九州の特急列車に乗せておいたのです。亀井刑事は、息子を誘拐されていますから、いつ犯人から連絡が来るか分からないので、特急列車に乗っている間、他に連絡が出来ません。一方、犯人は、東京の我々に電話してきて、午前八時から午後一時(十三時)までの間に、問題の手紙を持って来い。さもなければ、亀井刑事の息子を殺すと言って来たのです。二つの時間を並べてみます」


「この二つの時刻表を見れば、犯人が何をやったのか明瞭です。犯人は、亀井刑事を二つの特急列車に乗せ、ほぼ同じ時間、我々東京の刑事を亀井刑事と切り離しておいて脅迫したのです。我々は、亀井刑事と息子の健一君が、どこにいるのか分からないままに、犯人の命令どおりに動かざるを得なかったのです。その点、犯人は、上手く立ち廻ったと言えるのですが、ここに来て、我々の動きと犯人の動きを改めて比較すると、犯人の動きに、不可思議に思える所が出てきたのです」
 十津川は、ここで一息つき、お茶を一口、口に運んでから、自分が不審に思った犯人の動きについて話を続けた。
「犯人は、小西栄太郎が余命一年と知っていたし、心臓発作で緊急入院していたことも知っていた筈なのです。普通の犯人なら、様子を見ると思うのです。長引くことも分かっていた筈です。公判で負けても、弁護側が上告することは決まっていたからです。その上、心臓発作で、被告人は八重洲病院に転院させられ、動かせないことも分かっていた筈なのです。裁判は更に延期されることも考えられていたのに、それを待たずに、我々を脅迫してきたのです。犯人は何故、様子を見なかったのか? 何故、犯行に走ってしまったのか? 不思議で仕方がないのです。犯人が危険な行動を起こしても、問題の手紙を手に入れることが出来るかどうか分からないのです。それなのに、何故、強行したのか? 今になると、不思議で仕方がないのです。一つだけ考えられるのは、我々の注意を集めておいて、何か別の事件を起こしたのではないかということなのです。我々警視庁の注意は、午前八時から午後一時(十三時)までの間、誘拐犯との駆け引きに費やされました。この時間帯に日本のどこかで事件が発生していなかったかを調べる必要を、今、強く感じているのです。もし、私の心配が当たっていれば、その隠れた事件は、何か特別な理由があって、隠されたのです。誘拐事件に隠されたのです。そこで、私は、この日の午前八時から午後三時までの間に、日本の中でどんな事件が起きているかを調べることにしました」



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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第三章 特急いさぶろうと特急はやとの風2
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