連載
九州観光列車の旅
第四章「別件逮捕」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 十津川の手元に、亀井刑事から、誘拐された長男健一の書いたメモが送られてきた。そのメモによると、健一が「或る列車」の車内で誘拐されたことから、鹿児島中央のホテルで解放されるまでの経過は次の様なものだったという。

 健一は父と一緒に、九州の長崎と佐世保との間を走る新しい観光列車、「或る列車」に乗ってはしゃいでいた。嬉しかった。
 二両の列車の中を、走り回っている内に、喉が渇いた。そうしたら、そこにいた中年の女性から、
「これを、飲みなさい。美味しいわよ」
 と、缶ジュースを渡され、お礼を言って飲んだら、その内に、無性に眠たくなって意識をなくしてしまった。
 その後、トランクの中に、押し込められてしまったのだが、そのへんの記憶は無い。とにかく眠ってしまったのだ。
 気が付いたら、ベッドに、寝かされていたが、そのベッドが動いていて、後で分かったのだが、そこはかなり大きな改造車で、ベッドが三つあり、その他に、洗面所、トイレ、シャワー、キッチン、そして椅子やソファーが、置かれた小さな居間があった。健一は一番奥のベッドに、寝かされていて、他の二つのベッドには二人の中年の女性が、健一を監視していた。
 女性だが、大きくて力があり、反抗する事は、許されなかった。乱暴な扱いは受けなかったが、逃げようとすると、ロープで縛られたり、すぐ麻酔薬を打たれたりするので、反抗は出来なかった。
 車は絶えず動いていて、窓には、シールが貼られていたので、どこを、走っているのかは分からなかった。時々止まっていたが、その時は、二人の女性の内の一人が、必ず起きていて、十一歳の健一には逃げ出す事が、出来なかった。
 車の中で、一週間ほどを過ごした。その後、急に、車から降ろされ、ホテルの中のロビーでここから動かない様に命令され、動いたら、ひどい目にあわせると脅かされ、犯人たちが姿を消してもホテルのロビーでじっと、誰かから声を掛けられるのを待っていた。その後、突然、父親の亀井刑事が来て、解放された。

 これが、健一の記憶している全てだと言う。
 健一は、力の強い大柄な女性二人だと、言っているが、ひょっとすると、それは男かも知れない。
 十津川は、そんなふうに、考えた。
 健一は、改造した自動車に、最初から最後まで、乗せられていたらしいが、どんな形の改造車か分からないのは、健一が、外からその車を見ていないからだった。分かるのは、何日間も、大柄な女性二人と一緒に乗っていたということだけだ。
 ベッドが三つと、シャワー、キッチン、居間などがあるという事から考えて、かなり大きな改造車である事は、十津川にも想像がついた。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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第五章「二つの力」2
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