連載
九州観光列車の旅
第四章「別件逮捕」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 次は、十津川の想像が、当たっているかである。
 その後、小西栄太郎の病状は、安定せず、病院に入院したままなので、裁判の方は延期が続いていて、少なくとも、あと一か月は開廷の予想がつかないといわれた。そうした小西栄太郎の病状から考えて、東京で行われる小西栄太郎の裁判について、それを、無罪に持っていこうとしての誘拐とは、考えにくくなってきた。
 十津川が考えたのは、全く関係のない事件を隠そうとして、健一が誘拐されたのではないかという事だった。もちろん、小西栄太郎を、無罪に持っていこうとして、健一が誘拐されたという考えが、完全に消えた訳ではなかった。
 したがって誘拐事件としての捜査も引き続き進めていた。
 だが、ここに来て、十津川が全力を尽くしたのは、健一が誘拐されていた時間に、日本全国でどんな事件があったか、それを取り上げて、その事件のその後を、調べるという事だった。
 問題の時間は、八月十日の午前八時から十三時までの間。その時間帯に、日本のどこかで、十津川が、危惧する様な事件が起きているのではないかという事だった。
 その間に起きている事件が、いくつかあって、十津川は書き出してみたが、調べてみると、それらの事件は一様に、既に、終わっていた。
 もし、完全に、解決していたとすれば、十津川の推理は、間違っていたという事になる。当然、警察の中にも、十津川の考えに、反対の声はあった。その筆頭が、三上刑事部長である。
 頻繁に開かれた捜査会議の中で、三上刑事部長が、次の様に反対した。
「犯人側が亀井刑事の息子を誘拐し、亀井刑事に、問題の手紙を奪い取れと、命令したのは事実だし、その手紙を、持っている緒方検事のそばにいた若い吉田刑事が、犯人から鉄棒で殴られて、瀕死の重傷を負った。これも、間違いないんだ。単なる陽動作戦でそんな事まですると思うか?」
 それに対して十津川は、
「確かに犯人側は問題の手紙を奪う為に、亀井刑事の息子を、誘拐したと思われます。しかし、問題は、その後の犯人の行動です。私が調べたところによると、公判が始まる前に、被告側は、小西栄太郎が、心臓病の為に一か月公判を、延期してもらう様に、申請する事になっていたというのです。つまり、誘拐事件が、起きなくても被告人側は、一か月の延期を、勝ち取るだけの自信があったと、言っているのです。したがって、あの誘拐事件は、全く別の目的で行われたと、私としては考えたいのです。その表れが、八月十日の事件です。八月二日のケースは、明らかに子供を誘拐し、その子供を人質にして、亀井刑事に問題の手紙を奪ってこさせようとしています。しかし、八月十日のケースは、それとは、全く違っています。八月十日でも、もう一度子供を、人質にして、亀井刑事に問題の手紙を、奪って来いと命令していたら、私は納得します。しかし犯人が命じたのは、九州の特急列車『いさぶろう』と、『はやとの風』、この二つの特急列車を乗り継いで、鹿児島中央に行けという、指示です。何かをしろと言った訳ではなくて、逆に何もするな、その列車に乗っていろという指示です。それだけで犯人は、人質に取っていた子供を、解放しました」
「君は、それを、どの様に考えているのかね?」
 三上が聞いた。
「いろいろと考えましたが、これといった答えは見つかりません。それで、弱っているんです」



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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第五章「二つの力」2
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第四章「別件逮捕」2
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