連載
九州観光列車の旅
第四章「別件逮捕」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 十津川は、どうやって亀井刑事を救い出すか、刑事たちを、集めて意見を聞いた。
「今のままでは、亀井刑事を釈放させるのは、難しいと思います」
 と、日下刑事が言った。
「とにかく、殺されたのが片山総理夫人ですから、そう簡単には、釈放されないと思います。そうなると、方向としては、一つしか考えられません。八月二日に、九州の観光列車の中から、誘拐された、亀井刑事の息子の健一君。この誘拐犯人を、逮捕出来れば、我々の証言が、正しい事が分かりますから、亀井刑事は、釈放されると思います」
「とにかく、誘拐犯を、捕まえる。そこから突破口を見つけ出そう」
 と、十津川は言った。
 誘拐犯について、誘拐された十一歳の健一が証言している。大柄な女性が二人いたと言うが、その二人は、おそらく、男性が女性の格好をしていたのだろうと、十津川は、見ていた。
 もう一つは、健一が乗せられていたという車である。
 ベッドが三つあり、シャワー、トイレ、キッチンなどが付いていたし、ソファーのある小さな居間も付いていたというから、かなり大きな車である。まずは、その車を見つけ出す事から始めようと、十津川が、刑事たちに言った。
 十津川はまず、そうした車を専門に扱っているディーラーに行き、健一が証言した車内の様子から、どんな車が、考えられるか、出来れば、その車の設計図を、書いて欲しいと頼んだ。問題なのは、健一が外からその車を見ていない事である。
 ディーラーの担当者は、さまざまな車の設計図を、見せてくれた。そのディーラーでは、元々専門の車を、販売しているが、改造もしていると言う。
 そこで、十津川は、ディーラーの担当者に健一の証言を基にして、大体の設計図を、描いて貰った。
 出来上がった設計図を、見ながら、ディーラーの担当者が言った。
「これは、国産車を、改造したものじゃありませんね。おそらく、アメ車でしょう。アメ車を改造したか、あるいは、改造された車を、購入したのではないかと考えます。ベッドが三つ、その他にソファーがある居間が付いていたと言いますから、改造すれば、そこにも、ベッドが、二つは置けるでしょう。ですから、五〜六人は乗れる様な、大きな車だと、思います」
 そこで、十津川は、設計図を何枚もコピーして、九州の長崎・熊本、そして、鹿児島の、各県警に依頼して、最近こうした車を見た事がないかを調べて貰う事にした。現場を九州にしたのは、九州を走っていた観光列車から健一が誘拐されていたからである。少なくとも、長崎・佐世保間を走っている「或る列車」、熊本から吉松まで走った「いさぶろう一号」、そして、吉松から鹿児島中央までの「はやとの風一号」、おそらくその観光列車の近くを、誘拐された健一を乗せた車が、走っていたに違いないと考えたからである。
 三日目に、結果が出た。
 熊本市内のガソリンスタンドで、それらしい、大型の改造車にガソリンを補給したという証言がもたらされたのだ。
 十津川は、すぐ、日下刑事を連れて、熊本に急行した。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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