連載
九州観光列車の旅
第四章「別件逮捕」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 熊本空港に待っていてくれた熊本県警の刑事が、市内のガソリンスタンドまで案内してくれた。
 熊本駅近くの店だった。
 三人いる店員の一人が、アメ車の写真を、十津川に見せて、
「これと同じ車でした。アメリカで、一番売れている車ですよ。運転手一人を含めて、五人から七人の定員」
「それで、乗っていた人間は、分かりましたか?」
「私たちが応対していたのは運転手で、大柄な女性でしたよ。他にも、何人か乗っていたみたいだけど、外には、誰も出て来ませんでしたね」
「運転手だけど、男みたいに見えませんでしたか?」
 と、十津川が聞くと、店員は笑った。
「そういわれれば、声が野太かったな。男かも知れないですね」
「ナンバーを見ましたか?」
「東京ナンバーだったけど、あのナンバーは当てになりません」
「どうしてですか?」
「プレートのまわりが汚れているのに、プレートだけ、いやにきれいでしたからね。たぶん、うちで給油する直前に、プレートを取り替えたんだと思います」
 と、店員が言った。
 それでも、十津川は、そのナンバーを聞いて、手帳に書き止めた。
「ここに、その車が来たのは、八月十日ですね?」
 と、十津川が改めて聞いた。
「そうです。八月十日の午前八時ちょうどでしたね」
 と、店員が言う。
 十津川は、計算した。
 八月十日、熊本発、吉松行きの「いさぶろう一号」に、亀井は乗った。いや、犯人に乗れと、命令されている。
 時刻は、午前八時三一分発の特急である。その三十一分前の、午前八時に、犯人が乗っていたと思われる車は、熊本市内の駅近くのガソリンスタンドで、給油をしていたのである。
「給油には、何分ぐらいかかったんですか?」
 と、十津川が聞いた。
「そうですね。支払いまで入れて、十二、三分ぐらいでしたね」
 それが、返事だった。
「それで、車は、すぐに発車した?」
「そうです」
「どちらの方向にです?」
「八代の方向です」
(OKだ)
 と、十津川は思った。
 八月十日、亀井が乗った特急「いさぶろう一号」は、まず八代に向かって走るからである。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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