連載
九州観光列車の旅
第四章「別件逮捕」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 何となく、他人事の様な喋り方だった。やはり、小野にしても、警視庁の仲間を容疑者として、調べるというのは、楽しくはない筈である。
「もう一つ、気になるのは、本当の犯人の事なんだ。八月十日の青森県人会の準備中に、何人かが、手伝っていた。その中に、亀井刑事がいたと、全員が、証言している。その証言の信憑性についても、調べているんだろうね?」
 と、十津川が聞いた。
「もちろん、六人全員が証人だから、当たっているよ。残念ながら、全員が、亀井刑事の写真を見て、間違いなく、同一人物だと、そう証言している。首を傾げる様な人間は、一人もいないんだ」
「亀井刑事本人にも、面通しをしたんだろう?」
「六人全員に、亀井刑事本人を目撃させているが、間違いなく、八月十日に一緒だった人だと、証言している」
「証言をしている、その六人の名前を、教えてくれないか?」
「残念ながら、それは、禁止されている。亀井刑事の関係者には、六人の名前は教えるなと、言われている」
「六人には、絶対に、危害を加えたりしない。誓うよ」
 と、十津川が言った。
「そういう話になっていくから、禁止なんだよ。もし、六人の一人が、誰かに殴られて負傷でもしたら、まっさきに疑われるのは、君たちだ。仲間の亀井刑事を助けたくて、証人の一人を襲ったに違いないと、そういう事でね。そして、六人の名前を教えた私も、非難される」
 と、小野が言った。
「六人は、普通の一般人なのか?」
 と、十津川が聞いた。
「まさか、そんな筈はないだろう。青森県人会の手伝いをしている人たちだからね。特に、総理夫妻が主催する県人会だからという事で、六人とも、自主的に、早くやって来て、準備を手伝っていたと、言われている」
「そうすると、片山総理か、あるいは、片山夫人のファンというか、二人に近い人という事だね?」
「そういう際どい質問には、答えられないな」
 と、言って、小野が笑った。
「君は、亀井刑事の事を助けたくはないのか?」
「個人的な感情に立ち入るのは、捜査で一番危険な事だと、上司に教えられている」
「参ったな」
 一瞬の無言があってから、
「実は、片山総理ファンクラブというのがある」
 と、小野が言った。
「そんなものがあるのか」
「ある。市販はされていないが、そのファンクラブの名簿を、たまたま、私は一冊持っているので、特別に、それを君にプレゼントするよ」
 それだけ言って、小野は、電話を切ってしまった。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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