連載
九州観光列車の旅
第四章「別件逮捕」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 翌日、「片山総理ファンクラブ」の名簿が送られてきた。
 よく見ると、最初のタイトルは「片山先生を総理大臣にする会」になっていて、それが、片山総理が誕生した今は、「片山総理ファンクラブ」になっているのである。
 その中には、当然、「青森県人会」の会員も入っていた。
「やたらに多いな」
 と、十津川は顔をしかめた。
 そこに書かれた名前だけでも、ゆうに五百人近い。
「五百人全員を調べていたら、年齢(とし)を取ってしまう」
 と、顔をしかめている内に、その顔に、笑いが浮かんできた。眼を凝らすと、分からないくらいの、小さな丸が、五百人の内の何人かの名前の頭に、付いているのを見つけたのだ。
 数えてみると、その丸の数は、全部で六つだった。
 つい、十津川は、ニヤッと笑ってしまった。慌ててボールペンを取って、その六人の名前を書き出していった。

 秋山 実
 池田裕介
 海原献一郎
 工藤夏彦
 佐野愛美
 杉本ひろ子

 これが、六人の名前だった。男四人と、女二人である。
 全員の現住所は、東京都内になっていたが、もちろん生まれたのは、六人全員が青森なのだろう。これだけでは、年齢も職業も分からない。
 しかし、逆に、十津川が知りたいのは、この六人の年齢と職業である。
 迷った末、十津川は現在、私立探偵をやっている橋本豊を、夕食に誘った。別に何も言わずに誘ったのだが、西新宿の中華料理の店で会うと、橋本は、
「亀井刑事の事で、私を呼ばれたんでしょう?」
 と、言った。
「分かるかね?」
「新聞に載っている記事を見れば、だいたいの情況は、想像がつきますよ。上から、亀井刑事を助けるなと、釘を刺されているんでしょう?」
「だいたい当たりだ。だが、私としては、何としてでも、亀井刑事を助けたい。しかし、動きが取れない」
「今、警部は、一番、何をされたいのですか?」
「亀井刑事が、八月十日、品川のホテルで青森県人会があった時に参加したと、証言している六人の男女がいる。この六人が、どんな人たちなのかを知りたいのだが、私が直接、動く事は許されていないんだ」
「その六人の事を、私が調べればいいんですね?」
「しかし、誰にも、それを頼めないんだ。亀井刑事に関係する捜査は、禁止されているからね」
 十津川は、六人の名前を書いた手帳を、橋本に見せた。
「この六人ですか。全員、住所が東京ですから、おそらく、調べるのは、さほど難しくはありませんね」
 と、橋本が言う。
 十津川は、これで、橋本が引き受けてくれたものとして、
「調査料の請求は、私個人にしてくれたらいい。いや、私の奥さんの方がいいかな」
 と、言った。
 十津川は、少しばかり、ホッとした表情になっていた。

【つづく】



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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