連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 一週間後に、橋本から、調査が終わったという知らせが入ったので、十津川は、捜査本部の近くのカフェで、会うことにした。
「例の六人ですが、全員が『山の会』に入っています」
 と、橋本が言う。
「『山の会』って?」
「片山総理の名前から取って『山の会』と言い、青森県から上京してきたが、生活に困った連中が助けを求める、いわば県民の会の救助センターみたいな所で、池田裕介、この人は年齢六十歳で一応成功しているので、『山の会』の理事長をやっています」
「なるほど」
「人材派遣会社の社長です。あと二人の男、海原献一郎と工藤夏彦の二人は、この人材派遣会社で働いています。それから女性二人ですが、二人とも二十代の独身で、秋山実が経営している『マウンテン』という名前の四谷にあるカフェで働いています。六人とも『山の会』の会員です」
「それで、亡くなった総理夫人は、この『山の会』とどういう関係が、あるんだ? 当然、『山の会』のオーナーになっているんじゃないのか?」
 と、十津川が聞いた。
「いえ、片山夫人の方は『山の会』には入っていません」
「どうして入っていないんだ?」
「元々、片山夫人の方は、青森の資産家の娘に生まれています。資産家というだけではなくて、父親は、青森県の知事、その弟も県会議員で、片山夫人の家系の方は青森県の財界と政界に重きをなしていました。それに対して片山総理の方は、平凡なサラリーマンの家庭に、生まれています。中学、高校と地元の学校を卒業していますが、その頃から聡明だという噂が立っていました。東京の国立大学に入り、その後、夫人の父親、青森県の知事だった父親が片山総理に目を付けて、自分の秘書としています。これが、片山総理の政界入りの第一歩になっています。噂では当時から総理夫人の片山信江、当時は柴田信江ですが、当時から総理の将来性に目を付けて、父親に政界に入れるように勧めていたと言われています」
「つまり、現在の片山総理があるのは、青森の政財界を牛耳っていた夫人の柴田家の援助があってこそというそういう事か」
「もちろん、片山総理の個人的な能力があった訳ですが、青森県の中では、やはりどうしても片山夫人や一族のバックアップのおかげで総理になれた、という声があることは、否定できないと言われています」
「それに対して、総理の周辺には反発もある訳だな」
「そうですね。今、申し上げた『山の会』の人たちの間では特に強く、反発している所があったようですね」
「片山総理夫人は、どうして『山の会』に入っていないんだ?」
「どうも、夫人の周辺には『山の会』に対して、貧乏人の集まりみたいに言って馬鹿にしているような感じがあったようです。とにかく片山夫人の家系は、今も昔も青森県の政財界に影響力を持ち続けてきましたから、『山の会』のような、人助けの会を馬鹿にしていたんだと思いますね。何しろ、元の外務大臣の柴田信一郎さんも、片山夫人のお兄さんですから」
 と、橋本が話す。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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