連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「なるほど。夫人の方は政界のサラブレッドで、総理の方は叩き上げで苦労してきたということか」
「そうです。これも噂ですが、夫婦間でも夫人の方が強かったみたいですね。そうした夫婦間の関係を、『山の会』の人たちは面白くは見ていなかったと思います。総理夫人が、さまざまなことに口を出すことに対して、面白くなかったと思います」
「われわれとしては、いかにして亀井刑事を助け出すかなんだが、最初に亀井刑事の長男、健一君が誘拐されたが、この件について『山の会』なども絡んでいるのかな?」
「『鷹の羽会』というのがあります」
 と、橋本が言った。
「どんな会なんだ?」
「総理夫人の柴田家の家紋が、鷹の羽なんです。鳥の鷹の羽です。それで『鷹の羽会』という会を作っていましたが、信江さんが、総理夫人になると、他の県でも、家紋が鷹の羽の人の家は、この会に、入会するようになってきました。そのため、中央政界でも馬鹿に出来ない力を持つようになっています」
「片山総理は『鷹の羽会』に入っているのか?」
「夫人は、総理に『鷹の羽会』への入会を勧めていたようですが、総理自身は、自分の家の家紋は鷹の羽ではない。それに、あまりにもこういう会が強くなると、日本のためにも良くないといって、入ってはいないようです」
「ところで、亡くなった小西栄太郎は、どちらの会に入っていたんだ?」
「小西家の家紋も、鷹の羽ですから、当然『鷹の羽会』です」
「そうなると、何としてでも、小西栄太郎を助けたいというのは、総理夫人の方ということになるね」
 十津川は、内心、苦笑しながら、喋っていた。そんな眼で、事件を見ていたことは、なかったからである。
「ところが、小西栄太郎は、病死してしまった。そうなると、人質にとった亀井刑事の息子、健一君の処分に困ったはずだな。そこで、犯人は、どうしたと思うかね?」
 十津川は、橋本の顔を見た。
 橋本は、総理夫妻には、それぞれに後援会があることを調べてくれた。まず、その橋本の意見を聞きたかったのだ。
 橋本は、少し考えてから、
「小西栄太郎の件については、総理はもともと、弁護する気はなかったようなのです。何しろ、あんな事件ですからね。ところが、夫人の方は、同じ『鷹の羽会』の人間だから、何とか助けたいと思っていました。だからといって、夫人が誘拐したとは思いません。今はやりの忖度を『鷹の羽会』の一人がして、あんな誘拐事件を起こしたんじゃないかと思います」
「その点は同感だ。問題は、そのあとだよ」
「小西栄太郎が病死してしまったので、人質の健一君も必要なくなりました。ただ、要らなくなっただけでなく、処置に困ったと思います」
「だから、犯人がどうしたかだ」
 十津川は、少し、いら立っていた。
「私には、思いもつきませんが」
 と、橋本が、肩をすくめる。
「健一君を誘拐したのが『鷹の羽会』の人間だったとして、考えてみよう」
 と、十津川が言った。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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