連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「小西栄太郎が病死してしまったので、人質は不要になった。というより、邪魔になった。そうなって犯人は、どうしたか?」
 十津川は、自問自答していく。
(しかし、人質を、黙って返す訳にはいかないだろう。何しろ、人質は、十一歳になっているからだ。証言能力があるのだ)
 そこで、どうするか?
(犯人が『鷹の羽会』の人間なら、すぐ対抗意識を持っている『山の会』のことを考えたに違いない)
 そのあと考えるのは、『山の会』に罪を押しつけることだろう。罪のかたまりの亀井健一を押しつけることだ。
(キャンピングカーだ)
 やっと、最初の答えが見つかった。
 健一は、大きな改造車に閉じ込められていたと証言している。
 ガソリンスタンドの店員たちの証言から、アメ車ダッジを改造したキャンピングカーだと、分かっている。
 もし、持主が「山の会」の会員だったら、健一を誘拐した犯人は、最初は健一をトランクの中に閉じ込めておいて、その後、キャンピングカーに押し込んだのではないか?
 犯人としては、「山の会」の会員を困らせてやろうという気持もあっての行動だった。が、トランクの中の健一を発見した「山の会」の会員は、多分すぐに「鷹の羽会」の仕業だと気がついたのだ。
 そこで、彼らは、健一を、別の行為に利用することを考えたに違いない。会員の中に、亀井刑事そっくりの男がいることを利用して、「鷹の羽会」の親玉、片山夫人を殺して、その犯人を亀井刑事にする計画を、である。
(この推理に、まず誤りはないだろう)
 これが、十津川の下した結論だった。
「ところで、『山の会』には、どのくらいの会員がいるんだ?」
 と、十津川が、橋本に聞いた。
「十万人と言われていますが、完全な会員数は、分かりません。片山総理の意向で、青森県生まれの人間なら、誰でも入れるし、助けを求めることが出来ると言われています」
「その会員の中に、今言ったように、亀井刑事に似た男がいたらしいんだが、そのことについて何か情報はないのか?」
 と、十津川が聞いた。
「東京に住んでいる会員が開いた『山の会』の会合の時に撮った写真を、何枚かコピーして貰ってきました。その中の一枚に、亀井刑事によく似た男が写っています」
 そう言って、写真を、橋本が見せた。
 十五、六人が、一緒に写っている写真である。確かに、その中に亀井刑事によく似た顔の男が写っている。
「この男の名前は、分からないのか?」
 と、十津川が聞いた。
「それが、分からないのです。特に問題の六人ですが、この六人に聞くと、全員が亀井刑事だと言います」
 と、橋本が言った。
「これから先は、私がやる。君には礼を言う。実費は、すぐに私の妻宛に請求してくれ」
 と、十津川が言った。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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