連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 十津川は、六人の中で資産家でもあり、「山の会」の理事長もやっているという、池田裕介に狙いを決めた。いつもならば亀井刑事を連れて行くのだが、彼は、まだ依然として容疑者で、逮捕されたままである。そこで、十津川は、若い日下刑事を、同行させた。
 会社名は「山の会人材派遣会社」となっていた。四谷に本社があり、そこで十津川は、社長の池田裕介に会った。池田は笑顔で十津川を迎えた。
「『山の会』というのは、片山総理が会長になっている、青森県の人たちの集まりだそうですね」
 と、十津川が言った。
「そうなんですよ。私の所でも、一応日本中の人材を、集めていますが、それでも、どうしても青森県の人間が多くなってしまいます。ところが、このことが会社を大きくする原因になりました。青森の人間というと、素朴で人が良くて、辛抱強いですから、派遣した先で評判が良いんです。これも青森県人の気質の良さゆえだと思って、青森県に生まれたことを、誇りに思っていますよ」
 と、池田が言う。
「青森県の人間なら、誰でも入れるんですか?」
「もちろん、入れます」
「この写真ですが」
 と、亀井刑事によく似た男が、写っている写真を、池田の前に置いた。
「ここに写っているこの人、この人の名前は分かりませんか?」
 十津川が聞くと、池田が笑って
「その人は亀井刑事さんですよ。よくご存じじゃありませんか。今ちょっと問題を起こしていますけどね。彼も青森県人ですから、『山の会』に入っています」
「池田さんは、この亀井刑事と、話をしたことがありますか?」
 日下刑事が聞いた。
「そうですね。二、三回は、話をしていますよ。同じ『山の会』の人間ですから。まあ、会員の中で現役の刑事さんというのは、珍しいんですが」
 と、にこにこ笑いながら言うのだ。
「それが今度、殺人容疑で逮捕されました。事件が起きたのは、青森県人会の日ですよね。八月十日その日に、亀井刑事も皆さんと一緒にホテルで、県人会の準備をしていた。そうですね?」
「その通りです。六人に亀井さんを交えて、七人ですか。それで、会の準備をしていました」
「そうしたら、総理夫人が、いなくなってしまった?」
「そうなんです。まあ、片山夫人は別に会の準備を、自分で、手を下して一緒に働いていた訳じゃなくて、青森県で言えば資産家の娘さんですからね。あれこれ命令はしますが、自分で机や椅子を運ぶようなことはしません。だから、いなくなっても最初は、気がつかなかったんですよ」
 と言った。
「どうして、総理夫人を殺した犯人が、亀井刑事と、思われているんですかね。我々としては、亀井刑事は、そんなことはしない。そう信じているのですが」
「私だって、亀井さんが、殺人を犯すなんて考えてもいませんでしたよ。しかし八月十日、我々は、現場で準備をしていたんですが、その時、現場から姿を消したのは、総理夫人と亀井刑事の二人だけだったのです。そのことを品川警察署の刑事さんに、言いました。そうしたらこんなことになって、我々も、びっくりしているんです。今だって、亀井刑事が総理夫人を殺したなんて、全く考えていませんよ」
「しかし、どうして、亀井刑事が総理夫人を殺したと、言われているんでしょうか?」
「それは多分、総理夫人の方に、原因があるんじゃないかと思いますね。総理夫人の柴田家ですが、青森では、名門で資産家。青森県の政財界に重きをなしています。夫人は自分が有力者に頼んで回り、そのおかげで片山総理が生まれたのだと、何かにつけて自慢する人でした。秘書の中には、あれでは、総理は息がつまるだろうと、小声で言う人もいます。私も、そうした感じを受けました。よく言うじゃありませんか。女性の頭が良いと、国は誤ると。そんな感じを受けていました。特に、亀井さんは社会の秩序を保つ、それが仕事の刑事さんですからね。どうしても、総理夫人の行動や言動に対して腹を立てていたんじゃないかと思いますね。それで、カッとして殺してしまった。多分、亀井さんには、個人的な恨みなど、無かったと思いますよ。現在の政界を正しい方向に持っていく、それには、片山夫人の存在が癌になっている。そうした正義感から夫人を殺したんだと、我々は思っています。ですから、『山の会』としては、減刑の嘆願書を出そうと思っているのです」
 と、池田が言った。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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