連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「この亀井刑事の経歴は、ここで分かりますか?」
 十津川がわざと聞くと、池田は、笑って
「それは、私なんかよりも、そちらの方が詳しいんじゃありませんか。何しろ、二十年間警視庁捜査一課で、働いていて、今でも現職の刑事さんなんですから。私の方は、ただ単に青森県人で、『山の会』に入っている。それだけのことしか、分かりませんよ」
 と、突き放すように言った。
「『鷹の羽会』と『山の会』、この二つの会の規則みたいな物はありますか?」
 十津川が聞くと、
「もちろん、ありますよ」
 池田は、机の引き出しから二つの会の規則を書いたパンフレットを、十津川に渡した。
「『鷹の羽会』というのは、亡くなった片山総理夫人が音頭を取って作っていました。そして『山の会』の方は、総理が青森県の人たち、特に東京に出てきた人たちが困った時には、助けられるようにとして作った、そういう会ですね?」
「そうですよ。したがって、二つの会は、発足の趣旨が違います。『鷹の羽会』の方は、名門の人たちが集まっています。それから政財界の有力者の中で、家紋が鷹の羽の人たちが集まっています。つまり、権力者たちの集まりです。その点、『山の会』の方は、誰でも入れます。特に上京しましたが、生活に困っている青森県生まれの人たちが、入って来ます。その人たちを、片山総理に代わって、私たちが助ける。『山の会』というのは、そういう庶民的な会です」
「それでは、二つの会の間に、交流はあるんですか?」
「交流はありませんね。とにかく『鷹の羽会』をやっている人たちは、『山の会』の人たちを馬鹿にしていましたから」
 と、池田が言った。その顔に笑いは、無かった。



 十津川は、池田裕介以外の五人の人間についても、部下の刑事たちに指示して、調べさせた。
 三田村刑事と、北条早苗刑事の二人を、女性二人の佐野愛美と、杉本ひろ子が働いているカフェに、調べに行かせた。そこにあったのは「マウンテン」と名前が出ている、かなり大きなカフェだった。東京都内に、同じ「マウンテン」は、三軒あるという。
 刑事たちは、ウエイトレスの二十代の佐野愛美と、杉本ひろ子に話を聞くことにした。
「お二人とも、『山の会』の会員ですよね?」
 三田村が、まず聞いた。二人は頷いて、
「ええ、二人とも青森県の出身ですから」
「『山の会』というのは、前から知っていましたか?」
 と、北条早苗刑事が聞いた。
「最初は知りませんでした。とにかく青森県の生まれで、上京してきて最初はコンビニなんかで働いていたんですけど、仕事がしんどくて困っていた時に『山の会』の存在を知ったんです。青森県出身で何か困ったことがあったら、相談に来なさいというパンフレットも見たので、こちらに来て、このカフェで、働くようになりました」
 と、佐野愛美が言った。
「八月十日の青森県人会のことなんですが、お二人とも、ホテルに行って、会の準備をしていたんですね。他に四人いた。いや、五人いましたね。現職刑事の亀井刑事というのが一緒だった?」
「ええ、そうです。それに、総理夫人も来ていらっしゃいました」
「亀井刑事のことは、前から知っていましたか? 『山の会』の中に、現職の刑事がいることは、知っていましたか?」
「いいえ。『山の会』では、自分のプライバシイについて、いちいち明らかにすることは、しなくてもいいことになっています。それに、亀井さんも、自分から刑事であることを喋ることの無かった人です。私たちは逆に、お喋りばかりしていますけど」
 と、杉本ひろ子は笑った。
 佐野愛美も笑っている。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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