連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「八月十日ですが、ホテルで県人会の準備をしている時、総理夫人もいたんですね?」
「いらっしゃいました」
「会の準備をしている時、夫人と何か話しましたか?」
「いいえ。ほとんど話をしていません。総理夫人はホテルのオーナーなんかと話をしていました」
「亀井刑事とはどうですか? 話をしませんでしたか?」
「今も言ったように、『山の会』では、あまりプライベートなことは、話す必要が無いと、言われているんです。ですから、事件が起きてから初めて、亀井さんは、現職の警視庁刑事だと知ったくらいです」
 と、二人が同じことを言う。
「細かいことを聞きますが、皆さんはホテルに何時頃集まって、会の準備を、始められたんですか?」
 早苗が、聞いた。
「午前八時です」
「八時きっかりというのは、どうしてですか?」
「午前八時に集まるように、言われていたからです。その時間から準備を始めないと間に合わないと言われて、私たちの他に、五人、全部で七人の人が、集まっていました。あ、その他に総理夫人もです」
 と言った。
「その時、亀井刑事も、いた訳ですね?」
「ええ、いたはずです。それが、いつの間にか総理夫人がいなくなって、亀井刑事さんも、姿が見えなくなったんです」
「それについて、おかしいなとは、思いましたか?」
「いえ、総理夫人は元々、ホテルでの準備の支度なんかは、ほとんどやっていらっしゃいませんでしたから、何か用事があって消えたんだなと思って、別に不思議にも思いませんでした」
「亀井刑事の方はどうですか?」
「ああ、一人人数が、足りないな、とは思っていました。それだけです」
 二人が、かわるがわる言った。
 刑事たちは、この「マウンテン」のオーナーでもある秋山実に、会った。会ってまず、聞いたのは、
「『山の会』は、全員で十万人ぐらいの会員がいるという話なんですが、この数字は、間違いありませんか?」
「間違いないと言えば言えるんですが、『山の会』に入会するのも脱会するのも自由ですから。会員として、登録している人もいますが、たまたま一時的に会員だったという人もいますから」
 と、秋山は曖昧な話をする。
「我々としては、亀井刑事のことが引っかかるんですが、彼は『山の会』の正式な会員ですか?」
 十津川が聞いた。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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