連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

「それは分かりません。会員になるもならないも自由ですから。何か青森県人会があったりすると、手伝いに、集まってきたりするんです。八月十日もそうでした。私も含めて七人、ホテルに行っていましたね。その中に、たまたま亀井刑事もいたということです」
「『山の会』というのは、どんな時に、集まるんですか?」
「今も言ったように、青森県人会の集まった日なんかには、私もお手伝いに行っています」
「その他には?」
「助けを求めて来た人たちがいる時には、余裕のある人たちに呼び掛けて、集まって貰うこともあります」
「ここに、亀井刑事が、写っている写真があるんです。何の会だったか、分かりますか?」
 と、三田村刑事が写真を見せて、
「この集まりですが、何月何日という正確な日にちは、分かりませんか?」
「いや、今も言ったように、『山の会』というのは、集まりが自由ですから。たまたま、集まりがあるのを知って出席した人もいるでしょうし。写真を見ると、かなり昔の話のようなので、ちょっと、この会のことを、記録した物は無いと思いますね」
 と、秋山が言った。
「もう一つ聞きますが、秋山さんは『山の会』に現職の刑事の亀井刑事が、入っていることは、知っていましたか?」
「いや、全く、知りませんでした。何人も会員がいますから、誰がどんな仕事をしているとか、どこに住んでいるとか、そういうことは全く分からないんです。『山の会』の会報を毎月出していますが、職業は書かなくてもいいことになっていますから」
 秋山が言う。
「そうすると、『山の会』の会報は、毎月出すんですね?」
「そうですよ。毎月一日に作っています」
「何部くらい、作るのですか?」
「そんなに多くは作りません。百部くらいですかねえ」
「それを、どんな所に、配るんですか?」
「青森県人がやっている、ここのカフェとか、中華料理店とか、その他、青森県人が集まりそうな所に置かせて貰っています。中にはバーもあれば、まあ、飲食店が一番多いですね」
「毎月一日にこれを配るとして、その時にその月の何日に、会があるということを、当然記入する訳でしょう? そうでなければ、ポスターを見ただけでは、どうしていいか分かりませんからね」
「そうですね。一応、第二日曜日に集まるようにはなっています」
「集まる場所は、毎月同じですか?」
「いや、同じことはあまりありません。日曜日に、店を開いている所ばかりとは限りませんからね。あ、それからここのカフェでは、今年になって五回、『山の会』の集合場所になっています」
「その時は、何人くらい集まるんですか?」
「さっき刑事さんが、見せてくれた写真のように、集まったとしてもせいぜい十人ぐらいですよ。それでも、良いんです。青森県人にとって何かの助けには、なっていますから」
 秋山は、殊勝なことを言った。
 なかなか、亀井刑事の無実を証明する方法を見つけられない。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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