連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura

 十津川は危機を感じた。このままでは、亀井刑事は殺人容疑で起訴され、裁判になってしまうだろう。それまでに、何とかして助け出さなければならない。
 そこで十津川は、急きょ部下の刑事たちを集めた。
 捜査会議が、開ければ一番良いのだが、禁じられているし、亀井刑事を助けるために集まることも、禁じられている。したがって、警察署の中ではなくて、近くのカフェで集まって、十津川が現状を、刑事たちに説明した。
「今回は、二つの事件に、亀井刑事が絡んでいる。最初は、小西栄太郎を助けるために犯人は亀井刑事の息子、健一君を、誘拐して亀井刑事に問題の手紙を盗むように命令した。しかし、被告人小西栄太郎の病状が、悪化したので、その必要が、無くなった。ところが、健一君は返されず、亀井刑事は、新しい指示を、与えられた。ただ、奇妙なことに、犯人の指示は、亀井刑事に何もやるな、動くなというものだった。そこで、私はこちらの犯人は、別人ではないか、別のグループではないか、そんなふうに、思うようになった。『山の会』の中に、亀井刑事そっくりの男が、いた。その男を利用して殺人事件を、起こす。したがって、その男が動いている間、亀井刑事が、別の所で見られていては困る。そこで、亀井刑事本人を、九州の特急列車に、縛りつけておいた。亀井刑事のアリバイを、無くしたんだ。その考え方も、総理夫人の殺害を、考えたのも、第一の犯人とは別の、グループの人間だと、私は思うようになった」
「しかし、どちらの犯人も、亀井刑事の息子、健一君を、人質に取って亀井刑事に、命令していますよ」
 と、日下刑事が言った。
「その通りだ。この二つの事件で、犯人グループが、別人だとしても、グループの間で、人質の、健一君が手渡されたことになる。つまり、二つのグループはどこかで、繋がっているんだ」
「確か、健一君は、キャンピングカーに乗せられていたということですね?」
 と、北条早苗刑事が言う。
「そうだよ。健一君は、第一の犯人からキャンピングカーに放り込まれたんだ」
「とすると、二つのグループは、キャンピングカーで、繋がっているんじゃありませんか?」
「その通りだが、このキャンピングカーがなかなか、見つからないんだよ。我々は何とかして、キャンピングカーを、見つけ出さなければいけない。それが亀井刑事を助け出す最初の一歩になるはずだ」
 と、十津川は強調した。
 十津川は、改めて問題のキャンピングカーの写真を、刑事たちに配った。
「アメリカ車の改造だと分かった。アメリカ車はダッジだそうだ。かなり有名なキャンピングカーで、アメリカで改造されて、それが何台か日本に輸入されている。全部で五一六台。その中の一台を何とかして見つけ出したい」
「他に、キャンピングカーについて分かっていることは、ありませんか?」
「八月十日、熊本市内のガソリンスタンドで給油している。その時に、大柄な女性二人が乗っていたことは分かっているが、どうやらこれは、男が変装していたものらしい。このキャンピングカーが、九州で亀井刑事が乗っている特急を、追いかけていた節がある。もちろん、特急の方が、速いから、途中から鹿児島中央駅に、直行したんだと思うが、途中までは、並行して走っているんだ。そして時々、亀井刑事に、指示を出している。その指示も、必要があってしているんだが、亀井刑事が、指示通りに特急を乗り継いでいるかどうかを、確認していたんだよ」
「それでは、熊本県警と鹿児島県警に協力を要請できませんか?」
「今は表立って、協力要請はできない。上の方が、うるさいからね。こちらが亀井刑事を助けるために動いていると分かれば、上の方から停止命令が、出ることはハッキリしている。現職の刑事が、容疑者なので、勝手に警察が助けるために、動いていると分かれば、マスコミに叩かれるからね。よって、それを、かいくぐって捜査を進めなければならない。だから、あらゆる物を、使いたいと思うんだ。私はもう一度、私立探偵を、やっている橋本君に協力を、要請するつもりだ。私個人が私立探偵を雇ったということにしてね」
 と、十津川は言った。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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第六章「亀井救出の道」2
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