連載
九州観光列車の旅
第五章「二つの力」2 西村京太郎 Kyotaro Nishimura



 十津川の計画は、こうだった。刑事たちが勝手に動くことは許されないし、分かれば、叱られる。
 そこで私立探偵の橋本豊に、頼んで、問題のキャンピングカーを探してもらい、見つかったら、十津川班の刑事たち全員が一日だけ休暇を取って、一斉に、キャンピングカーを調べる。そうするより仕方がないと、十津川は思っていた。
 そこでもう一度、警察署の外で橋本に会い、問題のキャンピングカーを、探してもらうことにした。誰が運転していたのか、誰が、所有主なのか、つまり、問題のキャンピングカーの全てを、である。
「この捜査は、急を要するので、君の知っている私立探偵を、何人雇ってもいい。その費用は私個人に、請求してくれ。とにかく、急いでいるんだ」
 それだけを、十津川は言った。
 橋本は、仲の良い個人営業の私立探偵四人を雇い、五人で、一台のキャンピングカーを追跡することになった。
 日本には五一六台が輸入されている。輸入業者に、連絡を取って、一台ずつ誰に、売られたか、現在どこで使われているかを、調べて貰った。それが意外に、簡単だったのは、キャンピングカーという特別な車だったからで、持ち主も、限られていたのだ。
 その中でも、熊本のガソリンスタンドで、外観を見られている、問題の、キャンピングカーは、アメリカ車のダッジで、ツートンカラーと、分かっている。それを探していると、鹿児島県枕崎の、人出の無い海岸で、一台のキャンピングカーが、炎上して大騒ぎになったという報告が、橋本に入った。
 橋本は、四人の私立探偵と一緒に急きょ鹿児島に、向った。多分、持ち主は、所有するキャンピングカーを調べていると分かったので、急いで燃やしてしまうことにしたのだろう。
 しかし、燃やしたことで、逆に手掛かりが、掴めたと、橋本は思った。
 地元の警察は、このキャンピングカーがアメリカで改造されたこと、ガソリンは満タンになっていたので、燃えるのも早かったと発表した。
 そこで、橋本たちは、鹿児島県内のガソリンスタンドを洗っていった。炎上した時、満タンなら、鹿児島県内、あるいは市内のガソリンスタンドで、満タンにしたと、考えたからである。橋本の推理は当たっていて、鹿児島市内のガソリンスタンドで、最後の補給をしたことが分かった。
 ガソリンスタンドの店員二人が、問題の車と乗っていた人間について、しっかりと覚えていた。
「乗っていたのは、というより、ガソリン満タンと、こちらに言ったのは、女性二人です。どちらも、女性にしては、大柄でしたね。とにかく満タンにして欲しい。それから、鹿児島県の地図が無いか、特に、海岸線の地図が欲しいと言われたんですよ。そこで、店にあったものを差し上げました」
 給油したのは早朝で、その日の夜に人気の無い海岸に出て、そこで、炎上させたのだ。おそらく、ガソリンスタンドからすぐ海岸の現場に向ったと、考えていいだろう。
 地元の警察によれば、火が出たのは午前一時頃。たちまち、車全体に、火が回り、消防車五台が、この海岸に急行して、消火が始まったが、火勢が強くて、数時間にわたって、炎上を続けたという。
 その結果、キャンピングカーのガソリンタンクは、満タンだったのではないかと、報じられた。死傷者は誰もいなかった。キャンピングカーに乗っていた人たちは、火が出る前に、姿を消した。また、放火の疑いもあると、地元の警察が、発表した。
 問題のキャンピングカーの持ち主を調べていくと、東京・新宿にある旅行会社の持ち物と分かった。新宿にある旅行会社では、同じキャンピングカーを、五台持っていて、そのうちの一台が、盗まれてしまった。そこで、警察に届けを出し、調べてもらっていたのだが、見つからなかったのである。
 車が炎上した前日の、七時半頃、ガソリンスタンドに、問題のキャンピングカーが、立ち寄って給油したというのである。店員の一人が車の中で猫の鳴き声がしたと、証言している。
 これで益々、このキャンピングカーが、問題の車であることがはっきりした。



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〈プロフィール〉
西村京太郎(にしむら・きょうたろう)
1930年東京生まれ。63年にオール讀物推理小説新人賞、65年に『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞、81年『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞、2004年には日本ミステリー文学大賞を受賞。鉄道ミステリーの第一人者。
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